高瀬庄左衛門御留書 砂原浩太朗-2021年上半期直木賞候補作-

時代小説

2021年上半期の直木賞候補作が発表されましたね。

その中で、一つの作品が目をひきました。

『高瀬庄左衛門御留書』

調べてみれば多くの賞賛のコメントが並ぶ本作。藤沢周平らの数々の時代小説家と比較される本作。一体どんな小説なのだろうか?

気になった読者の一人として、さっそく読んでみました。

本書は、“余韻を残す面白さ”があります。

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どんな小説家?

砂原浩太朗 1969年生まれ、兵庫県神戸市出身。早稲田大学第一文学部卒業。出版社勤務を経て、フリーのライター・編集・校正者に。2016年「いのちがけ」で第2回「決戦!小説大賞」を受賞。著書に『いのちがけ 加賀百万石の礎』、共著に『決戦!桶狭間』『決戦!設楽原』、また歴史コラム集『逆転の戦国史』がある。

『高瀬庄左衛門御留書』著者紹介文より

戦国時代を中心に執筆を重ねてきた小説家です。特に『高瀬庄左衛門御留書』は非常に好評に博していて、直木賞候補にも選ばれました。

『高瀬庄左衛門御留書』は神山藩シリーズ第1作とあるので、次回作以降も非常に楽しみですね!

概要

神山藩で郡方を務める高瀬庄左衛門は、妻と子を亡くし、息子の嫁・志穂に絵を教えながら日々を送っていた。

ある日出会った立花弦之助、という一人の若者との出会いから庄左衛門の人生は激動の渦へと巻き込まれていくことになっていくのである。

おすすめしたい人

・時代小説が好きな人へ

『高瀬庄左衛門御留書』は純な時代小説で、藤沢周平らの作品が好きないわゆる「時代小説ファン」におすすめな作品になります。

特に、多くの評論で「藤沢周平」の名前が挙げられているため、氏の作品と通ずるものがあるようですね。

個人的には、もちろん表現などは藤沢周平氏と重なる部分はあるかもしれませんが(三屋清左衛門残日録っぽいタイトルですし)、物語としては『高瀬庄左衛門御留書』には本書にしかない魅力があると思います。

是非、藤沢周平ファンのみなさん読んでみてください。

一方で、時代小説を好んで読むわけではない人におすすめなのが、前回直木賞を獲得した『心淋し川』です。

人間の心という普遍的な部分に重点をおいた作品群、連作短編であるため一話が短いこと、表現が堅すぎないことが、おすすめできる理由です。

小説の魅力

『高瀬庄左衛門御留書』は静と動を併せ持った展開が魅力的な作品です。

まずは、静としての魅力。妻も息子も亡くした50歳、人生の終わりが近づく一人の男が、空白を静かに見つめて、生きる様は人の世の儚さや憂いを感じさせるものです。

巧みな表現が散りばめられた地の文は、すっと心に溶け込んでいくものがあります。決して大きな波紋を投げかけるわけではありませんが、心の機微を的確に表現していく文章が、主人公と同じ目線を読者に持たせ、共感や余韻を残すのではないでしょうか・

一方で、動としての魅力。これは物語の展開にあります。

立花弦之助、志穂、碓井慎造など新たな出会いや旧友との再会のなかで、政変へと巻き込まれていく物語は静謐というよりは動乱に近く、いくつもの仕掛けが読者に予想外を起こし、読者を神山藩の中へと引きずり込んでいきます。

以上、物語としての動的な魅力、老年期を迎えた一人の男を表現するときの静的な魅力。

これらが相互に嚙み合っているからこそ、『高瀬庄左衛門御留書』は物語として面白くかつ、深みや余韻を残すのではないでしょうか。

まとめ

『高瀬庄左衛門御留書』は2021年上半期直木賞にノミネートされた時代小説で、各所で高い評価を得ている時代小説です。

評判にたがわず、面白い小説です。ただし、時代小説好きな人向けの作品だと思います。

自分としては、静と動の魅力があり、特に動的な部分に魅力を感じたのですが、みなさんはどうでしょうか?

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