心淋し川 西條奈加-2020年下半期直木賞受賞作-

時代小説

『心淋し川』は、心町で暮らしている人々が織りなす六つの物語から成る時代小説です。
場末の長屋が乱立したことから地域を総称して名付けられた町、それが「心町」です。

町に吹き溜まるどぶ川に象徴されるように、「普通の生き方」をすることが叶わず、心町に流れ着いた者たち。生きることは厳しく、時に幸せである。

情け容赦ない現実を前にしながらも、懸命に生きる姿に心揺さぶられる時代小説になっています。

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どんな小説家?

西條奈加(1964-) 北海道生まれ
2005年『金春屋ゴメス』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。小説家デビュー。
2012年『涅槃の雪』で中山義秀文学賞を受賞
2015年『まるまるの毬』で吉川英治文学新人賞を受賞。

そして、2020年『心淋し川』で直木賞を受賞しました。既に、中山義秀文学賞、吉川英治文学新人賞を獲得していることから、実績十分な小説家ですね。

雛な自分はまだ本作しか読んだことがありませんが、庶民の悲哀とささやかな幸せに彩られた時代小説はたまらなく好きなので、『涅槃の雪』も読んでみようと思います。

また、直木賞の後だけに、次作にはより期待値と注目度も高まりますね!

概要

・心淋し川
ちほは繰り返す日常に嫌気が差していた。父親は賭博、母親は人様の陰口ばかり。そんな日々の中で出会った一人の紋上絵師、どぶ川のなかに一つの清廉な風を感じたちほだったが...

・閨仏
六兵衛が四人の妾を囲って住まわせている、六兵衛長屋。
最年長のりきは、主人の閨から遠ざかって久しい。時間を持て余したおりきが見つけた一つの趣味は閨道具に仏を彫ることだった...

・はじめましょ
兄弟子から引き継いだ飯屋「四文屋」を切り盛りする与吾蔵、訪れた根津権現で小さな女の子が歌っていた歌は、かつて捨てた女がよく口にしていた歌だった。与吾蔵は、酷い仕打ちをした過去を悔やむとともに一つの希望を見出す。

・冬虫夏草
かつては商売が繁盛していた大店であったが、店主である夫が死に没落した今は母子二人で長屋暮らしをしている。「5歳児と変わらぬ」と揶揄されるほどのわがまま放題の息子に、吉の苦労は絶えぬと思いきや...

・明けぬ里
博打好きの父親の形にされ、売られた先の妓楼でいじめを受けても、持ち前の強情で生きてきたよう。ある日、妓楼時代、遊郭一の人気を誇った明里と再会する。仏と称されるほどに人が良すぎる明里に感謝しながらも、苦々しく思っていた過去が蘇る。後日、ように届いたのは驚くべき知らせだった。

・灰の男
極悪非道の大盗賊・地虫の次郎吉に人生をねじ曲げられた茂十は復讐を誓い、心町の差配に収まる。灰の男に執着することで、生きる糧とするもう一人の灰の男の行く末とは...

おすすめしたい人

・温かい小説に触れたい人
本作は、ほのぼのとした温かさではなく、厳しさにも似た温かさがあります。

苦境にあっても完全に情を捨て去ることは出来ない。そんな描写の数々に、本質的な人間の温かさを感じるのだと思います。

また、自分が前を向いたからといって必ずしも事態が好転するとは限りません。そんな苦境にあっても、ひとつ踏ん張っていく姿には心が打たれますし、勇気づけられる人も多くいるのではないでしょうか。

小説の魅力

・心町という舞台設定
開幕から描かれるどぶ川の描写は、そのまま心町に住む人の閉塞感や不満を表現しているかのようです。

心町という地域がどんな場所であるかは物語の冒頭で多く描かれるので、読者の頭には自然と町の情景が浮かび上がってくるのではないでしょうか。
各物語の内容に関しても、舞台との親和性が非常に高いので、より頭に入ってきやすく、納得感をもって読み進めることが出来ます。

一方で、心町が劣悪な環境であることをとことん強調されるがゆえに、最後の最後で老差配が語る「生き直すには悪くない土地でさ」という言葉が印象深く刻まれていきます。

・灰の男という作品
最終話に「灰の男」があることによって、『心淋し川』は一巻の作品に仕上がっています。
各物語で何気なしに出てきた差配の過去を描くことによって、彼自身が心町の最たる住人であることが描かれていきます。

また、「灰の男」では、これまでの主人公たちが今度は脇役として登場し、物語の「その後」を教えてくれます。多くの主人公が前へと進む中で、一人出てこないのは何やら不穏なものを感じずにはいられませんね笑

まとめ

『心淋し川』は吹けばとぶような場末の庶民が、現実を目の前に懸命に生きる姿を描いた作品です。
本の帯にある「生きる喜びと哀しみが織りなす、渾身の時代小説」、そして、直木賞受賞の看板に偽りはありません。きっと、読み終えた時には温かな気持ちがあなたを包んでいることでしょう。

みなさんが特に好きな作品は何でしょうか?自分は、「はじめましょ」「冬虫夏草」が好みでした。

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