ヴォイド・シェイパ 森博嗣-強くなることとは?-

小説

強いて言うなれば、ファンタジー剣豪小説とでも言うべきなのでしょうか?
幼きころより山の中で育ってきた青年剣士が旅を続けていく、字面だけではどこかありそうな設定ですが、読めばすぐに分かります。

開幕の数文だけで、一気に引き込まれます。そして、ノンストップで話は進み、読み終わったときにこれは序章かと気づくのです。

300pほどの小説ですが、おそらく普段の半分の時間程度で読み終わる人がほとんどだと思います。理由については、後ほど書きます!

それでは、まずは著者の森博嗣さんの経歴から見て行きましょう。

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どんな小説家?

森博嗣

作家、工学博士。1957年12月7日愛知県生まれ。某国立大学工学部助教授のかたわら。1996年に『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。以後、続々と作品を発表し、人気を博している。

『ヴォイド・シェイパ』著者紹介文より

S&Mシリーズ、Vシリーズ、百年シリーズなど幾多の人気シリーズがあります。また、Wikipediaをちらっと見ただけでも感じるほどに個性が滲み出るような方ですね!

ミステリを中心にした著作が多いことからも、本書『ヴォイド・シェイパ』シリーズはもしかしたら氏の作品の中では異端な部類に入るのかもしれません。

概要

師匠であるカシュウの死を受けて、ゼンは山を下りた。行く先は決めていないが、カシュウからは強くなるために二つのことをするように言いわたされていた。

「実戦を多くつむこと」「戦いを避けること」
矛盾した二つの教えに疑問を感じていたものの、旅を通じてゼンはこの教えの意味を徐々に理解していくのである。

旅先での刹那的な出会いと別れはゼン強さや生きることについて多くの問いを投げかける。初めて知ることを一つ一つ理解しようと努めながら、ゼンは旅を続けていくのであった。

おすすめしたい人

・ファンタジー初心者へ
ジャンルとしては、いわゆるファンタジーに属するのかもしれませんが非常に読みやすい小説でした。自分も、『獣の奏者』『新世界より』『指輪物語』『ナルニア国物語』しか読んだことがないのですが、本書は関係なく楽しめることが出来ました。

プロローグを読むだけでも、好きか嫌いかはすぐに分かると思うので、そこで判断してみるのが良いかと思います。多くの人にまずはプロローグだけでも読んで欲しいですね!

小説の魅力

・ゼンの人柄
ゼンは物心がついた時から、山で暮らしていてカシュウから剣と生きる術だけを教えられて生きてきました。いわば、村の生活などには一切理解がないのです。

旅先の見るもの触れるものの全てが新鮮な驚きに満ちていて、一つ一つの出来事に自分の頭で向かい合っていきます。非常に自省的、内向的ともいえる生真面目さがゼンの魅力です。

今までの強くなるために全てを捨て去る求道者のような剣豪とは大きく異なる点が本書最大の魅力でしょう。

自分の強さに驕ることなく、強くなることの意味や強くなるためにはどうすればいいか、突き詰めた先で彼が何を手にして、何を失うのか行く先を見届けたいと思わせる魅力的な主人公なのです!

・地の文の秀逸さ
ゼンが思考するとき、剣を交えるときには文体が一気に変化します。一文が短く、改行が非常に多くなるのです。

若武者が突いて出る。
ヤエジがそれを避けた。
刀が槍に当たったが、不完全。
撥ね上げられる。
ぶうんと音を立てて槍が振られ。ヤエジが後ろへ跳ぶ。

p255より

こうすることで、読者は次へ次へとページをめくることになり、戦闘の臨場感やゼンの思考のなかに溶け込んでいくような気持ちにさせるのです。

冒頭に書いた普段の半分程度の時間で読み終わるというのは、この効果によって次々とページをめくってしまうから気づけばもう読み終わっていたということです!

・出会いと別れの繰り返し
ゼンが旅をすることで色んな人と出会い、幾日かでまた別れが訪れます。彼ら一人一人の生き方にゼンは疑問をもち、考え抜いて、また次の場所へと進んでいきます。

ゼンに影響を与えるのは何も高尚な人間ばかりではなく、己が斬らざるを得なかった人、敗北すると分かっていながらも真剣勝負に向かう人など全てのひとにあたります。

彼が一つの出会いと別れを経験することで、読者もゼンに対する理解や勝手な親心が一つ加わっていくような気持ちになります。

まとめ

『ヴォイド・シェイパ』はシリーズの第一作であり、全体でみれば序章に過ぎないのかもしれません。しかし、第一作にして世界観が確立されていて、読んだ瞬間に引き込まれる力があります。

もし、あなたがファンタジーやら剣豪やらに興味がないとしてもそんな心を変えさせるだけの力を持った作品といえるでしょう。

シリーズを通して読んでみたいと思える作品でしたので、近々第二巻『ブラッド・スクーパ」の感想もあげていきたいと思います!

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