宇江佐真理といえば、時代小説が好きな人であれば一度は耳にしたことのある名ではないでしょうか?もしかしたら、多くの人が既に読んでいるかもしれませんね。
今回紹介する『深川恋物語』は、吉川英治文学新人賞を受賞した作品であり、その冠にふさわしい内容に仕上がっています!
善悪だけでは語り切れない人間の機微を丁寧に描き、一編読み終えるごとに感じる味わい深い読後感は非常に満足感の高いものでした。
時代小説に求める魅力が詰まった作品だと思います!
それでは、まず著者の経歴から見ていきましょう。
どんな小説家?
宇江佐真理、1948年、北海道函館市生まれ。函館女子短期大学卒業。1995年「幻の声」で第75回オール讀物新人賞を受賞。受賞作を含めた『幻の声 髪結い伊三次捕物余話』が第117回の直木賞候補作となり、新進の女流時代小説作家として注目を浴びる。他の著書に『泣きの銀次』『銀の雨 堪忍旦那為助八郎』『室の梅 おろく医者覚え帖』『紫紺のつばめ 髪結い伊三次捕物余話』がある。
『深川恋物語』著者紹介文より
デビューから精力的に執筆を続け、2015年に乳がんで死去するまでに多くの作品を生み出しました。一流の時代小説家に共通するように、彼女もまた速筆ですね。
代表作は、『髪結い伊三次捕物余話』であり、彼女のデビュー作から続くシリーズ作品です。
テレビドラマ化もされた人気作で、著者の名刺代わりともいえる作品でしょう。
今回読んだ『深川恋物語』が非常に面白かったので、こちらも読んでいきたいと思います!
概要
『深川恋物語』では、そのタイトルにあるように深川で起きる恋物語を収録した作品です。
心温まる恋物語もあれば、寂寥感が募る恋物語もあり、幅のある作品が味わえます。
・下駄屋おけい
おけいは幼馴染の巳之吉に惚れているが、彼は気づいていない。おけいも、長らく同じ環境で育ってきたせいか改まって恋心を伝えることが出来ずにいた。
年が経ち、巳之吉は悪友と遊びに繰り出すようになり、おけいにも縁談が舞い込むようになる。
叶わぬ恋を諦めたおけいは、ついに縁談を承諾したのだが、「一つの下駄」が巳之吉との距離を再び近づけるのであった。
・がたくり橋は渡らない
「いっそ心中してやろう」
懐に匕首を忍ばせ、信次はおてるを待ちかまえていた。しかし、いつまで立っても彼女はやってこない。
寒空の下、ひたすらに立ちすくむ信二を見かねた、一人の夫婦が彼を招いた。他人事とも思えない夫婦の人生話を聞くうちに、頑なな態度を見せていた信二に一つの変化が表れていく。
・凧、凧、揚がれ
おゆいと凧上げ師との物語。深川恋物語のなかでは異端ともいえる一作。
・さびしい水音
佐吉とお新の夫婦は仲睦まじく、ありふれた幸せな日々を過ごしていた。
お新の趣味は絵を描くことであり、佐吉も特に気にせず好きにさせていた。
しかし、お新の絵が評判になり、たちまち売れていくにつれて、生活は劇的に変わっていく。周りの環境の変化にあって、変わらずにはいられなくなったのだ。
絵が売れて思い上がったわけでもなく、互いを思いやる心を失くしたわけでもない。
それでも、変わっていく環境に昔のままではいられなかった。
流行り廃り、嫉妬、愛情など人間社会と心理を巧みに描いた一作。
・仙台堀
久助は優柔不断な男だった。
彼は、料理屋「紀の川」の娘、おりつとの縁談話をずるずると先延ばしにしていた。
久助には気になっている女がいた。お葉という病弱な女である。しかし、彼女はおりつの兄である与平を好いていたのだ。
微妙な距離感の漂う四角関係が、一つの事件を起こす。
・狐拳
悲劇と不運に見舞われた人生にあっても、強く生きることで道を切り拓く。
希望の物語。
小説の魅力
・人の魅力が詰まった物語
本書は、純愛一辺倒とか、ハッピーエンド一辺倒とか、そういう物語ではないです。
引き出しが多くて、読んでいるほうも先の見えない展開に、緊張感をもって読み進めることが出来ます。
結局、二人が結ばれることになるのか、別れることになるのか、苦難を乗り越えることが出来るのか、出来ないのか、分からないからこそ面白いです!
しかも、事実だけをみれば悲劇であっても、登場人物の心の動きを見ていると「これでよかったのだ」と納得感をもって読ませてくるので、どんな結末であっても一編読み終わった時に満足感があります。
・魅力的な登場人物が多い
本書で描かれる登場人物が好きです!
例えば、一編目「下駄屋おけい」では、
おけいは、巳之吉を好いていながらも、縁談を承諾してしまい、結局は巳之吉を諦めきれないところに、
巳之吉は、一度は道を踏み外し、最後には母親から罵倒されながらも誠実におけいを幸せにしたいと訴えるところに、
彦爺は、全くの無口でありながらその行動で示すところに、
それぞれ魅力があります。
時折汚い部分を露呈しながらも、幸福になりたいと願って生きる姿は、すごく心を打つものですよね。
そして、清濁のバランス感覚が絶妙です。
清らかすぎても、汚すぎても、なかなか共感しづらいのですが、登場人物たちがほんと生きた人間なんですよね。ついつい自分にも否定できない弱さだったり、葛藤があるんですよね。
まとめ
『深川恋物語』は。一編ずつの出来が素晴らしいので、すぐに読めてしまうのではないでしょうか。
時代小説好きであれば、ぜひおすすめの一冊です!味わい深い恋物語をぜひ堪能してください!
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