涅槃 垣根涼介-戦国大名の責務-

時代小説

垣根涼介最新作の『涅槃』は戦国大名である宇喜多直家を主人公に置いた作品です。
中国三大梟雄といわれ、謀略を用いることで有名な直家ですが、なぜ彼はこのような手法を用いることとなったのか……

幼き頃は大商家に育てられた経験と、戦国大名としての責務を全しようと生き抜いたことが物語の核だったのではないでしょうか。

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どんな小説家?

垣根涼介 1966年長崎県生まれ。

2000年 – 「午前三時のルースター」で第17回サントリーミステリー大賞読者賞受賞し、デビュー。
2004年 – 『ワイルド・ソウル』で第6回大藪春彦賞受賞、第25回吉川英治文学新人賞受賞、第57回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞。
2005年 – 『君たちに明日はない』で第18回山本周五郎賞受賞。
2013年 – 『光秀の定理』で第4回山田風太郎賞候補。
2016年 – 『室町無頼』で第7回山田風太郎賞候補、第156回直木賞候補。
2018年 – 『信長の原理』で第9回山田風太郎賞候補。
2019年 – 『信長の原理』で第160回直木賞候補。

wikipediaより引用

ハードボイルドを中心に描かれた作家ですが、『光秀の定理』以降は歴史小説、とりわけ戦国を舞台にした作品が多い印象です。大学生の頃に読んだ『君たちに明日はない』はとても面白かったです。大学生におすすめです。

概要

宇喜多直家、一代にして中国五十万石を統べる戦国大名になりあがった実績を持つ一方、謀略暗殺を駆使したことからダークなイメージの強い武将である。しかしながら、彼の人生を紐解いていくと一つの信義がうかがえる。果たして宇喜多直家とはどのような男であったのか?

小説の魅力

・宇喜多直家の描き方
本作では宇喜多直家が主人公であり、彼は元々謀略、冷酷のイメージが強い人物です。
しかし、本作においては、そんなイメージを塗り替える設定をしています。

元は浦上家の家臣としての出自でしたが、祖父の死をきっかけに没落しついには商人の家に匿われるほどになっていきます。父親は没落した家を再興することなく、自死し直家は幼くして一人お家再興の宿命を背負うことが義務づけられます。

1)商人の家で育てられたこと
2)没落した武士の成れの果てを経験したこと

この二つこそが宇喜多直家の全てを決定づける経験であったのです。

本作では「武士に生まれなければ商人になりたかった」と度々語る直家ですが、彼は当主となってからも商人のように全ての感情を抜きして、打算で動くようになります。打算で動くというと、何やらやはり従来の直家像に近いものを感じるかもしれませんが、そうではありません。

なぜ、彼は打算で動くのか?それは、没落した武士がいかに周りの者を不幸にするか、わが身をもって経験しているからです。故に「武士の矜持などは何にもならぬ」ことを知っているのです。己の評判がいかに地に堕ちようとも、戦国大名として家臣を食わしていけるのであれば、いかなる手段も問いません。

徹底した合理主義とその背景にある戦国大名としての覚悟、この二点があるからこそ本作の宇喜多直家は決して血に飢えた謀略家には見えないのでしょう。

“いかにして生き残るか”、彼の戦国大名としての生き様の全てはここに集約されているように感じました。

・濃密な女性関係
垣根涼介といえば性描写を非常に濃く描くことが特徴的ですが、本作ではもはや競技性とか匠の神髄を感じるほどの熱の入り方でしたね笑

直家のキーパーソンとなる二人の女性との熱烈な愛がとても眩しく映りました。

特に、お福の方は直家が長年得られなかった知性と美貌を有する武士の女子で、クールな直家の溺愛ぶりがとても印象的でした。

性描写がこんなに必要だったかな?と思う方も多くいると思いますので、インタビュー記事を載せておきます。なぜ性描写に熱を入れて書いたのか?が書かれています。

https://pdmagazine.jp/today-book/book-review-869/
涅槃-垣根涼介インタビュー記事

まとめ

『涅槃』は梟雄として名高い宇喜多直家を主人公に置いた作品です。どうしてもダークなイメージが先行しがちな彼ですが、本作では戦国大名としての覚悟に心打たれるものがあると思います。

多分、『涅槃』が好きな人は『じんかん』も好きだと思います。こちらも『涅槃』に劣らず面白い作品です。

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