殺人犯か被害者か、究極の二択から考えさせられる人間観、あなたなら何を望むのでしょうか?
非常に読みやすくかつ読み応えのある小説なのでぜひ読んでほしい作品です!!
どんな小説家?
雫井脩介 1968年愛知県生まれ。専修大学文学部卒。2000年に第4回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作『栄光一途』でデビュー。04年に『犯人に告ぐ』を刊行、翌年には第7回大藪春彦賞を受賞し、ベストセラーとなる。その他の著書に『火の粉』『クローズド・ノート』『ビター・ブラッド』『つばさものがたり』『検察側の罪人』『仮面同窓会』『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』などがある。
『望み』著者紹介文より
概要
戸沢市でリンチ殺人事件が起きた。行方不明者は三人であり、その一人に息子が含まれている。生きていれば凶悪殺人事件を起こした加害者であり一方で、被害者であれば息子の死が待っている。
究極の二択の前に、息子が殺人犯であっても生きていることを望む妻と、たとえ死が待っていたとしても息子の無実を望む夫の望みが交錯する。
小説の魅力
・テーマ設定と心理描写
生きていることを望めばリンチ殺人犯を認めることになり、無実であることを望めば婉曲的に息子の死を望んでいることにある。
究極といっていい命題に、人間の内なる望みが暴かれます。
もし、自分の家族が同じ立場だったらどう思うでしょうか?考えたくもないですが、読んでいれば自然と自分のなかで答えが出るのではないでしょうか。
正直どちらを選んでも正解はないわけですから、特に家族を深く愛する人ほど答えが難しいのではないでしょうか。
さらにこの問題が残酷なのは、自分の望みと現実が違った時です。
仮に生きていることを望んだ場合は、息子の無実を信じることが出来ず、リンチ殺人を行うような人間であることを認めていたことになりますし、一方で、加害者でないことを望んでいた場合には、加害者であるくらいなら息子の死を望んでいたことになります。
このようにいずれにしても自分の望みと異なった場合には、息子に対する裏切りに近いものになってしまうのです。
本作では非常に重い命題であるからこそ、自分の子供に対して本当に望むものが暴かれていきます。
前科を背負う罪も犯したこともなく、ましてや自分や近しい人が事件の被害者にあったことのない人にとっては、加害も被害も紙一重のところで生きていることを感じさせられる作品なのかもしれません。
まとめ
『望み』は究極ともいえる命題を投げかけ、そこから人間の内なる望みや社会性をあぶり出していきます。時に醜く思えるシーンもあり、家族愛を感じるシーンもあり、第三者の凶暴性を感じることもありと、非常に読みごたえのある小説になっています。
ぜひ読んでみてください!!
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