黛家の兄弟 砂原浩太朗-強き虫となるために-

時代小説

『高瀬庄左衛門御留書』が激賞を浴び、次回作にも期待がかかるなか「神山藩シリーズ」第二弾として発売された『黛家の兄弟』

登場人物や物語は前作と異なるものの、著者の砂原さんが創る物語の奥深さや渋みには変わらぬものがありました。

前作が好きだった人には本作も間違いなくおすすめです!

弱いだけの正義ではなく、強虫となる。

勧善懲悪ではない、清濁併せ吞む強さを描いた物語を堪能してください!!

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どんな小説家?

砂原浩太朗 1969年生まれ、兵庫県神戸市出身。早稲田大学第一文学部卒業。出版社勤務を経て、フリーのライター・編集・校正者に。2016年「いのちがけ」で第2回「決戦!小説大賞」を受賞。著書に『いのちがけ 加賀百万石の礎』、共著に『決戦!桶狭間』『決戦!設楽原』、また歴史コラム集『逆転の戦国史』がある。

『高瀬庄左衛門御留書』著者紹介文より

『高瀬庄左衛門御留書』が激賞を呼び、現在注目を集めている小説家です。『黛家の兄弟』は神山藩シリーズ第二弾であり、2023年にはシリーズ第三弾として『霜月記』が刊行予定です!!

概要

筆頭家老を務める黛清左衛門には三人の息子がいた。長男・栄之丞、次男・壮十郎、三男・新三郎である。

黛の家を父・清左衛門から受け継いだ三人は、政争吹き荒れるなかをそれぞれのやり方で盛り立てていくのであった。

小説の魅力

・味わい深い情景描写

始まりから終わりまで絶えることなく、端正な情景描写が続きます。

綺麗ごとではいかない物語にも関わらず、非常にすっきりとした読後感や上品さを感じるのは、それだけ描写が丁寧で美しいからなのでしょう。

余白を上手く使った美しい装画も素晴らしく、本作との上品さと合っていたように感じました。

・綺麗ごとではいかぬ政

主人公の新三郎が、弱いだけの正義から強い虫になるまでが物語のメインテーマですが、

ここで敵役として描かれる漆原内記が非常に好みの人物でした。

彼は腹黒であり、対抗勢力の叩き潰しや、権力による揉み消しなど行いますが、一方で政治家としては優秀でることも確かです。

お家を繁栄させたいという個の気持ちと、藩のことを思う家老としての気持ちとは共存するものなのです。対照的に思うのは、力のない正義の質の悪さではないでしょうか。

正しいことを言っている分、付き従う者たちも多いですが、結局、力が無ければ大義を成すことは出来ず多くの者を不幸にさせるだけだからです。

漆原内記は“悪”の側面も強いですが、藩や領民のことも考えていることは確かで、物事を取り決め実行するという政にあっては、優秀な人物であるのではないでしょうか。

己の悪を自覚し、下劣などの誹りを受けながらも、権力を振りかざし、政を導く様は”強き虫”としての一貫した生き方であり、自分は彼の生き方を否定することは出来ませんでした。

他人に対してはどこまでも潔癖を求めていくなかでも、“強き虫”でいることは相応の覚悟と度量が必要なのでしょう。

・兄弟の絆

タイトルにもあるように本作では兄弟の絆がテーマのひとつです。

タイトルを見た時は、“兄弟の絆・感動物語”みたいなベタベタな内容だったら嫌だなと思ったのですが、そんなものは杞憂でした。

黛家を守るためにそれぞれが選んだやり方で、己の人生を生きていきます。

「俺たちはいつまでもずっと兄弟だから」的な、クサい台詞の応酬ではなく、

窮地の折には助けあい、相手のことを思うがゆえにあえて引き下がる姿は、清らかな兄弟愛を感じさせてくれました。

まとめ

『黛家の兄弟』は純粋な少年が大人となり辣腕をふるう政治家になるまでの物語です。

美しいだけの物語だけではありませんが、上品さを感じさせる情景描写と深みのある人間模様が魅力的な作品であることに間違いはないです。

また、本作が好きな方にはぜひ『秋月記』も読んでみてほしいです!!

こちらは“強き虫“となった男の物語です。

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