軍配者シリーズ最終巻、最大の見どころは川中島の戦い。五度にわたって行われた戦いで苛烈を究めたのが第四回といわれている。
信玄の軍配者として山本勘助、謙信の軍配者として宇佐美定満(冬之介)が相まみえる。
後世に残る激戦として知られるこの戦いがいかように始まり、どのような展開を見せたのかスピード感をもって描かれる。
どんな小説家?
富樫倫太郎 1961年、北海道生まれ。98年に第四回歴史群像大賞を受賞した『修羅の跫』でデビュー。「陰陽寮」シリーズや「妖説源氏物語」シリーズなどの伝奇小説、『蟻地獄』『堂島物語』などの時代・歴史小説、警察小説『SRO 警視庁広域捜査専任特別調査室』など、幅広いジャンルで活躍している。
『早雲の軍配者』著者紹介文より
概要
勘助の助力によって辛うじて命をつないだ冬之介。彼が向かった先は越後であった。当主の長尾景虎(上杉謙信)は武勇に秀でた名将ではあるが、不思議な人物であった。
軍略には疎く、非常識かつ感覚的な戦を行うにもかかわらず全ての戦で勝利を収めてしまうのである。また、時は戦国時代となり実力がものをいう社会でいまだに幕府などの旧勢力への敬いを忘れず、実利のない戦をすることもある。
国主としての景虎には幾多の問題点があるかもしれないが、冬之介は神がかりな戦の強さを誇る景虎に惹かれ、軍配者としての彼を支えることになるのである。
小説の魅力
・新しい謙信像
これまで上杉謙信といえば義に厚い、義のために戦をする。いわば聖人君主に近い描かれかたをすることも多くありました。
本作の上杉謙信といえば戦の強さこそ毘沙門天の化身ですが、内政といえばいまいちで、ライバルとされる武田信玄に遠く及ばないでしょう。
しかし、完璧超人として描かれる上杉謙信よりも幾分も魅力的に映りました。何故でしょう笑
思ったのは、彼の行動に対する説明として妙な納得感があったからだと思います。
やはり、義のため、人のためにしか剣を振るわない。弱きを助け強きを挫くために戦をする。
どうでしょう、戦国大名の行動原理を説明する時に上記の理由だけではどうにも納得感が弱くないですか笑
心のどこかでそうはいってもという気持ちが残る人も少なくない気がします。
その部分を全くもって上手く説明してくれるのが、軍配者シリーズで描かれる上杉謙信なんですよね。
正直、謙信ファンの人にはきっと歯がゆい所、納得いかない所は多くあるかもしれませんが、意識せずに既存の上杉謙信像を持っている人には結構面白く映るんじゃないでしょうか。
また、本作の謙信像が腹落ちする人はこちらも読んでみても面白いかもしれません。
物語としてもとんでもなく面白いのでおすすめです!
・山本勘助の人間的魅力
『謙信の軍配者』とタイトルにはありますが、武田家、山本勘助の描写も半分くらいあります。逆に自分の推しの北条家はあんまり出番がありません笑
本巻ではより山本勘助が遅い幸せをつかみ、好々爺とした姿が見られます。
どんどん丸くなっていく勘助に荒んだ男の魅力はもうないですが、代わりに武田家や家族のために生きる魅力が生まれています。
そこが、良くも悪くも謙信の軍配者である宇佐美定満(冬之介)との違いなのでしょうね。
まとめ
軍配者シリーズ最終巻は、川中島の戦いが一番の見どころです。信玄の軍配者と謙信の軍配者のどちらが勝つのか?三人の夢が果たされたその先には何が待っているのか?
ぜひお楽しみください。
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