花鳥の夢 山本兼一-辿り着いた新境地とは-

時代小説

狩野永徳は安土桃山期を代表する絵師であり、日本で最も有名な絵師といえる人物です。才能と努力を併せ持った人間が一流であるならば、永徳こそまさに真の一流といえるでしょう。

名前以上には知られていないその人生ですが、本書を読み終えたときには、永徳の印象は美しく彩られていることでしょう。

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どんな小説家?

山本兼一
1956年、京都市生まれ。同志社大学文学部美学及び芸術学専攻卒業。99年「弾正の鷹」で小説NON短編時代小説佳作。2004年『火天の城』で第11回松本清張賞を受賞。09年『利休にたずねよ』で第140回直木賞受賞。<中略>14年2月逝去。

『花鳥の夢』著者紹介文より

「とびきり屋見立て帖」シリーズをはじめとする時代小説、『利休にたずねよ』をはじめとする戦国ものの歴史小説を多く執筆された小説家です。

逝去前日まで小説を書き上げた姿は、まさに”生涯を小説にささげた”といえるでしょう。

己がすべてを決めた道に捧げた姿は、本書『花鳥の夢』の主人公である狩野永徳とよく似ています。

狩野永徳の絵も、山本兼一の小説も、生を削って作り上げたからこそ、真に迫力のある作品が仕上がるのかもしれません。

概要

名門・狩野家の長男として生まれた永徳は、生まれたときから絵を描くことを宿命づけられていた。

才能にも恵まれていた彼の力量は、いつしか父・松栄を凌ぐものとなり、名声は天下一と評されることになる。

しかし、彼の心のうちには複雑な感情で溢れていた。

名もない生まれから己が腕一本で名を成そうとするライバル・長谷川等伯に対する嫉妬、狩野家を背負う緊張感、そして、高みを目指し続ける向上心。

それらはいつしか龍となり永徳の心のうちで大きく蠢いていたのであった。

すべてを捧げて絵に向き合った天才絵師の輝きと苦しみ、そして喜びにあふれた生涯を描いた傑作長編小説。

おすすめしたい人

・戦国好きなら外せない一作
戦国小説は多くあり、歴史好きなら一度は読んだことがある人が多いのではないでしょうか。一方で、文化を描いた作品になるとあまり多くはありません。

しかしながら、生きる力と野心に溢れた戦国の文化人は、命をかけて戦場に立つ武将にも引けを取らぬ凄みがあります。

本書で描かれた狩野永徳はまさに代表的な人物といえるでしょう。

絵に生涯を捧げ、天下一の絵師として現代まで語り継がれるほどの功績を遺した姿は、絵師の世界においての、信長・秀吉に値する人物です。

夢と苦悩に生きた彼の人生は、戦国好きなひとだからこそ分かるのではないでしょうか。

そして、もう一つ狩野永徳を語るうえで忘れてはいけないのは長谷川等伯の存在です。

能登から身一つで京へ向かい、狩野派と対等な存在にまで上り詰めた姿は、”下剋上”の言葉がよく似合います。

安部龍太郎著『等伯』では、本書のなかでは多くを語られなかった長谷川等伯の壮絶な一生が描かれていますので、ぜひ本書とともに読んでみてください!

小説の魅力

・狩野永徳の凄みが凝縮されている
狩野永徳という存在を名前程度にしか知らない人は多いと思います。自分も『唐獅子図屛風』とセットで歴史の授業で覚えた程度のものです。

しかし、そんな私たちであっても本書の凄みを体感することができます。
大枠の物語としては、狩野永徳は新たなる境地を求めて、絵の道を究めていく物語で、ただそれだけです。

しかし、500頁の小説のなかで繰り広げられるもがき、苦しみ、喜びは、一つの道を生涯かけて探求していこうとするプロの姿があるのです。

妥協をよしとせず、常に自分の限界を超えようとする姿があったからこそ、歴史に名を残し、二人の天下人からも愛されたのかもしれません。

一方で、絵に対する気概や、狩野家の上に立つ者の誇りが、時に永徳を感情的にさせるのです。長谷川等伯への嫉妬、父・松栄に対する嘲りは彼が全身全霊をかけて絵に向き合っているからこそ生まれる副作用なのかもしれません。

このように、本書では、人間臭さも含めた絵師・狩野永徳の凄みが凝縮されています。
もちろん、読後に感じる、読者の喜びや感慨がひとしおであることは言うまでもありません。

狩野永徳という人物の凄み、そして、死ぬ直前まで小説に向きあい続けた山本兼一の凄み、一つのことに生を全うした男たちの「凄み」を存分に感じてください。

まとめ

『花鳥の夢』は戦国一の絵師・狩野永徳を描いた作品です。絵に一生を捧げた永徳と、小説に一生を捧げた山本兼一だからこそ描けたその境地。

戦国小説を知るためには必読の一冊といえるのでしょう。

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