砂の王国 荻原浩 -天国から地獄へ-

小説

天国から地獄へ、そんな経験をしたことがあるでしょうか。一日にして全てがひっくり返ってしまうようなそんな経験を。もし、心当たりがある人はあんな思いはもうごめんだと思っていることでしょう。対照的にそんなことなんて無い!って人は幸いです、そんな経験はしないに越したことはありませんからね。

しかし、天国から地獄へ、を経験する立場ではなく人から聞く立場になったらどうでしょうか?他人の不幸が嬉しい、そういう訳ではなくてもきっとその話には興味をそそられてしまいますよね。

今回紹介する『砂の王国』の主人公・山崎は一回でも懲り懲りなそんな体験を、反復横跳びするかの如く繰り返していきます。なので、この小説は間違いなく面白いです笑
また、著者は直木賞作家の荻原浩さんですから実力も折り紙つきです。

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どんな作家?

1956年、埼玉県生まれ。埼玉県立大宮高校、成城大学卒業。コピーライター勤務を経て、1997年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞し、小説家デビュー。2005年『明日の記憶』で山本周五郎賞を受賞。2016年『海の見える理髪店』で直木賞を受賞。

荻原浩さんはとにかくストーリーが面白いのが特徴です。感動させるにも笑いを起こすにも、スリリングな展開にさせるにも上手く、読者の手を休めさせることがありません。

初めて、小説を読む人には、伊坂幸太郎・奥田英朗さんとともに薦めたい小説家ですね。今作の『砂の王国』についても、上下巻合わせて文庫版で900ページありますが、すぐに入りこめてしまうので、普段小説を慣れ親しんでいる人には全くもって長さを感じさせないでしょう。

おすすめしたい人

とにかく面白いストーリーが読みたい人

概要

物語は山崎が会社員から失職し、ホームレスになった場面から始まります。ただでさえ、この世の地獄と、絶望しながら生きているところにさらに、なけなしのお金をむしり取られて山崎は全財産三円にまで落ちぶれてしまいます。しかし、理不尽ともいえる幾多の苦渋が山崎の復讐心に火をつけることになります。

山崎は、なんとか初期資金を準備すると、ホームレスをしている間に知り合った、占い師・龍斎と長身美形のカリスマ・仲村ともに新興宗教『大地の会』を立ち上げます。山崎の確かな運営力、龍斎の優れたコールド・リーディング-、そして教祖・仲村のカリスマ性。三者三様の個性を活かして、『大地の会』はピンチを乗り越えて、着実に成長していきます。

しかし、巨大化した組織運営では今まで通りにいかない点がありました。龍斎との運営方針の衝突や古参信者の脱退です。小さな軋轢が散見されるようになりながらも、組織はその後も勢いよく成長を続けていきます。

一大宗教になった『大地の会』について、山崎は徐々に懸念を覚えていきます。組織はもはや一個人で操れる段階ではないと。しかし、そのことに気づいた時こそが、作り上げた『砂の王国』が山崎の手から崩れ落ちていく合図に他ならなかったのです。

小説の魅力


目を離せないストーリ
ホームレスからさらに所持金三円に落ちぶれるまで、ビジネスを立ち上げるまでに初期資金を作り上げるまで、宗教を立ちあげてから信者を増やすまで。前半部分だけでも、これだけの転換期があり、ポイントごとにドラマチックな展開が用意されています。一つのイベントが終わったらすぐに次のイベントが発生していくので、まさに目を離せないストーリーになっています。

成功していく組織の始まり、しかもそれが一般的にはクローズドな宗教組織の始まりから覗くことが出来るので、否が応でも好奇心が反応してしまいます。

登場人物の個性
『大地の会』の創立メンバー三人の尖った能力はさることながら、信者にあっても個性があります。いや、個性というよりかは人間臭さかもしれません。人間なら誰しもが持っている「人間臭さ」を山崎・龍斎は巧みに操作して信者を取り込んでいくのです。

また、巨大化を目指す組織運営となれば、古参であっても能力の劣る人間を切り捨てなければならない場面が出てきてしまいます。より効果的に母体の拡大を狙っていく組織ではある意味仕方のないことなのかもしれません。
しかし、当事者からしたらたまったものではないです。
これだけ尽くしてきたのに」大地の会を離れていく時のそんな心情は、主人公側に立っている一読者からしても辛い部分がありました。

小説を書く際に参考にしたいポイント


・構成の巧みさ
おそらく、これだけの物語を「地図を見ずに」書けなんて言われたら誰でも無理だ!って思いますよね。もちろん、最高の地図があってもこれだけを書けるかって言われたらぼくには難しいですが笑 

『砂の王国』では構成が見事ですよね。大きなストーリーの中にも小さなイベントがたくさん仕掛けられていて、読んでいて納得感を持ちながら読み進められます。知識のない新興宗教に対しても、こんな感じで組織されているのだと違和感を持ちません。そして、小さなイベントの積み重ねが大きなストーリーの転換へと繋がっています。長編でありながらも、道筋が綺麗に通っているからこそ『砂の王国』は一気読みさせるのでしょうね。

地図というのは小説でいうとプロットに当たるのですが、これをどれぐらい固めるか、どれぐらいの自由度を残して書き始めるかっていうのは凄い難しい部分だなって思います。
ぼくは以前、最後と最初、途中で起きるイベントなんかを決めてから長編を書き始めたのですが、これが全くダメでした。今思えば、プロットが貧弱すぎたのだと思います。
長い物語すればするほど、技量に自信がなければないほど、プロットは綿密に作り上げたほうがいいのではないかなと思いました。起きるイベントだけでなく、登場人物の体格・特技、性格や家族構成、はたまた舞台の地形などなど。どうやったら唐突感や冗長さを持たせないようにして長編書くかっていうのは学ぶにつきないことですね。

一からプロットを作り上げることは難しいですが、『砂の王国』だったらどのようなプロットになるか自分で考えて一度作り上げてみることは、効率的・効果的な訓練になるのではないかなと思います

まとめ


『砂の王国』は誰しもが面白いと感じる、天国から地獄へというダイナミックなストーリーですが、それだけでなく巨大化した組織の弊害や組織に呑まれる一個人や、人間臭さといった小さなイベントの積み重ねもまた読者を離さない魅力となっています。

何はともあれ、とりあえず面白いので読んでみてください!

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