涅槃の雪 西條奈加-天保の改革に生きる人々-

時代小説

いきなりですが、問題です。
江戸時代、第12代将軍・徳川家慶の下で老中である水野忠邦が推し進めた改革は何でしょうか?

答えは天保の改革です!
享保の改革・寛政の改革とならんで歴史で学ぶ単語だと思いますので、一度は内容を学んだことがあるのではないでしょうか。

本書『涅槃の雪』は天保の改革の時代、江戸町奉行・遠山景元(金四郎)の下に勤める高安門佑が主人公となる時代小説です。
元遊女であるお卯乃との恋愛を描いた大きな物語のなかに、一天保の改革によって江戸の町に起きた事件が一話ずつ挿入されている、いわゆる連作短編といった構成になっています。

それでは、まず著者である西條奈加氏の経歴から見ていきましょう!

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どんな小説家?

西條奈加

1964年北海道生まれ。2005年に『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞。他の著書に『烏金』『恋細工』『はむ・はたる』『善人長屋』『四色の藍』などがある。

『涅槃の雪』著者紹介文より

また、今年の1月には『心淋し川』で直木賞を受賞しました。

『心淋し川』では本書に登場するお卯乃のような江戸の端くれでなんとか生きている市民を描いた連作短編小説になっています。本書が好きであれば、『心淋し川』も絶対面白いと思いますし、その逆も然りです。

もし、『涅槃の雪』か『心淋し川』を読んでよかったなと感じた人は、もう片方の作品を読むことをおすすめします。間違いなく満足感を得られると思います!

概要

高安門佑は頭を悩ませていた。原因は、天保の改革によって市民を取り締まる機会が増えたことだけではない。町奉行の遠山は持ち前の器量を盾に、門佑にあれやこれや好きなことを言い募るし、家へ帰れば帰ったで、姉の園江に小言をいわれるからだ。

そんな日々にあって、門佑の心を支えていたのはお卯乃の存在であった。

お卯乃と暮らす日々が門佑にとって唯一心安らぐ時間であった。言葉にはしないが、お卯乃とも心が通じ合っていることが門佑によっての何よりの幸せだった。しかし、突如としてお卯乃は家を出ていってしまう。

どこを探してもお卯乃の姿が見つからない、焦心した門佑もやがて姉に押しつけられた縁組を呑み、結婚してしまうのであった……

おすすめしたい人

・天保の改革を学んでいる人へ
本書を読んでいくと、天保の改革がどのような改革であったか、また、改革を受けて、世間はどのような反応を示したかが、よく分かると思います。

物語となっているため、「天保の改革」の中身を暗記するよりもしっくりと頭に入るようになります。以下が、全7話と改革の内容です。

・茶番白州(色街取締り)
・雛の風(天保の改革に対する市民の反抗)
・茂弥・勢登菊(女浄瑠璃をはじめとする寄席の取締り)
・山葵景気(株仲間解散令・値下げ令・改鋳)
・涅槃の雪(奢侈禁止令)
・落梅(人返し令)
・風花(上知令)

本書を読めば天保の改革の目的・施策・市民の反応と結果がよく分かると思います。歴史の勉強に小説を読むというのもひとつ面白いのではないでしょうか。

小説の魅力

・勧善懲悪ではない時代小説
時代小説というと、勧善懲悪なイメージが強いかもしれませんが、西條奈加さんの描く時代小説はそのような時代小説ではありません。時には理不尽がまかり通ることもありますし、弱きものがより虐げられたが最後に大逆転といった展開も基本的にありません。

しかし、自分はここに魅力を感じています。このような作風だからこそ、苦境で描く心の動きや行動に真実味と共感を覚えるのです。

一方で、常々理不尽がまかり通り続けている訳でもなく、幸せな描写もきちんとあります。
この点もまた、読者を気鬱にさせないために重要な点です。

本書の主人公・高安門佑についても、いわれのないことで誤解されたり、職務上市民からも反発を受けることもあります。だからこそ、お卯乃と楽しく話す姿がよりいっそう映えるし、読者の心も癒されていくのです。

・一話ごとにきちんと面白い
本書は、一話ごとに天保の改革をうけた市民の生活が描かれていきます。これら一話一話がきちんと面白いので、ものすごく読みやすいですし、区切りをつけやすいです。

『心淋し川』もそうですが、一話ごとの長さも内容も読み手にとって非常に親切で読みやすいつくりになっているなと感じます。

一日で一気読みするような爆発力のある作品ではありませんが、確実に読者を物語の世界にいざなって一話ごとに充足感を与えてくれることでしょう。そして、最終話を読み終わったときに一番感慨にふけるような作りになっています。

急がず、遅すぎず、最初から面白く、しかし最後に最高潮が来る。派手さはなくとも、確かに面白いと感じるのです。

まとめ

『涅槃の雪』は天保の改革時の江戸を舞台にした小説です。個性的なキャラクターと魅力的なヒロイン、悲劇にみまわれる市民と幕府のことしか考えていない役人など、見所に溢れた作品になっています。

爆発的ではないものの、確かに面白い物語は多くの読者を満足へと導く作りになっています。『涅槃の雪』、ぜひ多くの人に手にとって欲しい良作です!

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