剣豪ものといえば、その多くはハードボイルドなタッチで描かれていることが多いです。自分の中でも剣豪はどこか堅い雰囲気があり、人を寄せ付けない一匹狼的なイメージがありました。
しかし、『子連れ用心棒』はタイトルにあるように、幼子を連れて用心棒をする今までの剣豪小説とは一風変わった物語です。真犯人を追うミステリーな要素もあり、非常に読みやすくてすらすらと読めるかと思います。文量としても文庫版で350ページで、自分のように一日で読了してしまう人も少なくないと思います!
どんな小説家?
沖田正午(1949-)
現さいたま市生まれ。埼玉県立与野高校卒業。2006年『丁半小僧武吉伝』でデビュー。主な作品に、『子連れ用心棒』シリーズ、『姫様お忍び事件帳』シリーズ『北町影同心』シリーズなどがある。
時代小説シリーズを多く執筆されている小説家で、2006年のデビューから90冊以上を刊行している、非常に速筆で知られる小説家です。
本作の『子連れ用心棒』シリーズも全5巻で完結しているのですが、第1巻は2009年2月に刊行。そして、第5巻は2010年2月に刊行。と相当速いペースで書かれていることが分かります。
概要
秋葉竜之介は幼き頃より剣の腕に優れ、藩随一と目されていた。その才を藩主に見込まれた竜之介は、藩の剣術指南役にあたる講武館の館長の座を巡り、榊原源吾との御前試合に挑む。
様々な陰謀にも屈せず、見事勝利を収めた竜之介は館長の座に就くことになるのだが、その直後、妹が切り殺され、犯人とされる義弟が逐電したとの報告を受ける。しかし、竜之介はこの事件には真犯人がいると睨んでいた。
妹の敵と義弟を捜すべく、竜之介は残された甥っ子の鉄太郎を背負い、江戸へと向かう。
おすすめしたい人
・新たな剣豪小説を探している人
司馬遼太郎『燃えよ剣』、吉川英治『宮本武蔵』これらの作品に代表されるように剣豪は剣の道を究める者であり、鍛錬を積み重ねることによって培った精神の強さとともに描かれることが多いです。
彼らの求道者としての生き方もまたかっこいいのですが、『子連れ用心棒』は竜之介の人情的な温かさが魅力です。男一人で幼子の世話をして、さらには用心棒の時には背中におぶりながら戦うなど、今までの剣豪小説では出会っていなかった要素が多分に含まれています。
剣豪小説が好きな人はもしかしたら今まで読んできた作品とのギャップに驚かれるかもしれませんが、人情に溢れた『子連れ用心棒』もきっと楽しめることかと思います!
小説の魅力
・竜之介の人間的魅力
強くて、かっこいい。剣豪として基本的性格を踏まえたうえで、竜之介のさらなる魅力は「家庭的」なところです。竜之介は非常に優しい性格で、妹の幼子の面倒を嫌な顔を一つせずに愛情を注いでいますし、誰に対しても高飛車な態度をとることもなく、物腰柔らかで誠実な態度をとります。
竜之介は剣の強さもさることながら、それ以上に人間的な『子連れ用心棒』としての魅力があります。
・鉄太郎の活躍
背負われているだけの存在ではないのが、鉄太郎の凄いところです。要所、要所で立派に竜之介の相棒としての役割を果たします。読んでいくうちに鉄太郎にも愛着が湧いてきた自分は、幼子ながらも自身の境遇にどのように立ち向かっていくのか、彼の将来も思いながら読み進めていました。
シリーズ5巻を通して、これから鉄太郎がどう成長していくのか、どんな活躍を見せてくれるのかもも楽しみなところですね。
まとめ
『子連れ用心棒』はこれまでとは一味違う剣豪小説です。剣の道を究めていく求道者としての剣豪ではなく、剣の強さとともに家庭的な一面、優しさに溢れた剣豪になっています。
ハードボイルドな剣豪とは一味違う竜之介と、意外にも頼れる相棒の鉄太郎の二人の活躍を是非楽しんでみてください!
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