長曾我部盛親は四国の覇者・長曾我部元親の四男で、元親から長曾我部家の当主を引き継いだ者である。その生涯は、関ヶ原の戦いで西軍に属したため改易の処分を受け、大阪の陣で豊臣方に属し敗北、処刑されたという。
戦歴だけを見れば、出自だけに恵まれた凡才に見えなくもない。しかし、この戦国の世に敗れた将は決して愚鈍ではなかった。才器としては十分であったが、将器として成るまでが遅すぎた。戦国大名として生まれてしまった悲劇の武将を紐解く。
どんな作家?
『梟の城』(1959年)『竜馬がゆく』(1962年)『燃えよ剣』(1964年)『国盗り物語』(1965年)『坂の上の雲』(1968年)など数多くの代表作がある小説家。
現在においても、歴史小説の分野では最も有名であり、人気のある小説家ではないでしょうか。発行部数ランキングでは以下のようになっており、オールジャンルでみた小説家の場合においても、司馬遼太郎氏を凌ぐほどの小説家はおそらくほとんどいないでしょう。
1位 竜馬がゆく 2125万部
2位 坂の上の雲 1475万部
3位 翔ぶが如く 1070万部
4位 街道をゆく 1051万部
5位 国盗り物語 674万部
6位 項羽と劉邦 669万部
7位 関ヶ原 520万部
8位 菜の花の沖 475万部
9位 花神 453万部
10位 世に棲む日日 445万部
11位 功名が辻 395万部
12位 播磨灘物語 392万部
13位 この国のかたち 365万部
14位 峠 322万部
15位 城塞 307万部
16位 新史太閤記 262万部
17位 義経 240万部
18位 箱根の坂 238万部
19位 胡蝶の夢 231万部
20位 最後の将軍 220万部
Wikipediaより
概要
『戦雲の夢』は長曾我部盛親を主人公においた歴史小説です。
盛親がいかにして関ヶ原で西軍についたのか、大阪の陣に参戦したのか?才器を持ちながらも時代の潮流に押し流されてしまった武将の一生が描かれます。
おすすめしたい人
・戦国好きな人
長曾我部元親ではなく、長曾我部盛親。ここの人選が絶妙ですよね。
四国の覇者・長曾我部元親なら「まあこんな風に描かれるよな」と想像もつきます。「姫若子」と称された時代から四国統一まで壮大なドラマがありますからね。
しかし、長曾我部盛親には正直これといったエピソードはありません。いわゆる時代の敗北者であり、歴史ドラマであれば主役を張るような人物ではありません。
だからこそ、稀代の歴史小説家・司馬遼太郎が長曾我部盛親をどんな風に描くのか、戦国ファンであれば気になってしまうのではないでしょうか。
また、本書の良いところは1巻で完結するところです。(長曾我部盛親が主人公だからかな?)歴史小説というのは往々にして1巻では完結しません。5巻くらいはざらですし、例えば池波正太郎の『真田太平記』などは16巻です。初めて読もうとするには、小説の長さが障壁の高さとなりがちです。しかし、本書は1巻で完結しますので、気軽に手に取ってもらうことが出来ると思います!
小説の魅力
・才器があるからこそのもどかしさ
才器があっても、将器でなければならない。本書を読んでいると、盛親に才器があるからこそのもどかしさを感じることになると思います。盛親は、自分一人であれば最善の決断を下していることの方が多いです。しかし、戦国大名たるものそれだけではいけないのです。
時には自我を押し通して国の未来を切り開いていくのが当主の役目ですから。
一方で、このもどかしさこそが盛親の魅力でもあります。もどかしさを感じれば感じるほど読者の老婆心は増していき、いつの間にか物語にどっぷりとつかっているのです。三英傑の出世ドラマを見て行くのとは違う、もっと近くの存在を見ているような親近感こそが本書における盛親の魅力なのでしょう。
・最後に将器としてなる姿
そんな盛親が最後の最後に将器として成り、華々しい戦果を挙げます。散り際に見せる盛親の戦国人としての生き様は、「運が悪かった」生涯だからこそ一段と光り輝いて見えることでしょう。是非、関ヶ原の戦いと蟄居を経てからの、成長した盛親の姿に注目してください!
・戦国人とは思えぬ優しさ
そして、盛親は優しすぎます。あれだけ強くて、賢いのに事が成せなかったのは優しすぎることが原因なのかもしれません。己が意志を押し通すことが出来ない柔弱な優しさは結果として人を不幸にすることもあります。これは戦国大名としての立場からも女性関係に置いた立場からも盛親の欠点であり、一方で人としての美徳なのかもしれません。
まとめ
『戦雲の夢』は長曾我部盛親の悲劇のドラマです。強くて、賢くて、優しい、盛親は時代や立場が異なればきっと大成するだけの人物だったでしょう。しかし、読者からしたら魅力的に映る「親近感」は戦国の世を渡り歩くには捨て去らなければならぬものでもありました。
本書を読み終えた時に、あなたの思う長曾我部盛親像は変わっていると思います。戦国の世を渡りきることの出来なかった長宗我部盛親は、一方で愛さずにはいられぬ存在なのです。
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