デビュー作でもあり、代表作となる「髪結い伊三次捕物余話シリーズ」の第一作です。
宇江佐さんの作品を幾つか読んできましたが、心が温まる優しい物語がとても好きです。デビュー作である本作も、派手さはなくとも物語全体を柔らかな優しさ包んでいて、宇江佐真理らしさを感じました。
どんな小説家?
宇江佐真理、1948年、北海道函館市生まれ。函館女子短期大学卒業。1995年「幻の声」で第75回オール讀物新人賞を受賞。受賞作を含めた『幻の声 髪結い伊三次捕物余話』が第117回の直木賞候補作となり、新進の女流時代小説作家として注目を浴びる。他の著書に『泣きの銀次』『銀の雨 堪忍旦那為助八郎』『室の梅 おろく医者覚え帖』『紫紺のつばめ 髪結い伊三次捕物余話』がある。
『深川恋物語』著者紹介文より
小説の魅力
・とても優しい
これは仕方のないことなんですが、基本的に時代小説は男尊女卑で、理不尽を呑み込む縦社会です。卑劣なシーンや言動など現代的な倫理観や感覚で読めば発狂してしまうものも多いです。
けれど、宇江佐真理さんの時代小説はとても優しいのです。
高名な男性作家の描く時代小説とはまた毛並みが違います。
一つあげるなら、女性の描き方です。
時代背景を捉えれば、女性が主人公になりえることは難しく、耐えることが多いのが実情だったでしょう。
しかし、宇江佐さんの作品では家の奥に留まって静かにしているような女性はほとんどいません。男性と同じように社会に出て活躍していたり、相手が夫であってもしっかりとものを言う女性が多いです。
各話のなかには確かに悲しい話もありますが、「髪結い伊三次捕物余話」全体を通せば人の温みを感じられる物語になっています。
だからこそ、時に起こる悲劇は真実味をもって読者に刺さりますし、一冊を通して読んだときには温かな印象を与えるのではないでしょうか。
まとめ
優しく心温まるが好きだけど、一方で嘘くささや綺麗事が嫌いな読者様へ、宇江佐さんおすすめです。
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