半席 青山文平-真の動機を知った先に-

時代小説

半席の家に生まれた片岡直人。

彼が頼まれ御用を引き受けることによって起きる変化が大きな物語としてありますが、一方で、事件一つ一つに対しても推理小説としての側面があります。

それではまずタイトルにもなっている”半席”について説明すると、

御家人から身上がりして旗本になるためには、御目見以上の御役目に就かなけれればならない。ただし、一度召されるだけでは、当人は旗本になったとしても、その子は旗本と認められることはない。永々御目見以上の家になるためには、親子で合わせて二つの御役目に就く必要がある。

そして、一度御目見以上の役に就いている状態のことを“半席”というのです。

本書では、何とかして“半席”から脱して、永々御目見以上の家になる(生まれてくる子供は生まれから旗本の身分)になれるようにという思いを抱えて職務にあたる主人公の成長譚です。

片岡直人の人生、そして頼まれ御用の依頼主、咎人の思いが心を温かくする作品になっています!

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どんな小説家?

青山文平 
1948年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。経済関係の出版社に18年勤務したのち、フリーライターになる。2011年、『白樫の樹の下で』で松本清張賞を受賞し、デビュー。2015年、『鬼はもとより』で大藪春彦賞、2016年『つまをめとらば』で直木賞を受賞。江戸中期の成熟した時代にあってなお懸命にもがき生きる人々を描く時代作家として注目されている。著書に『かけおちる』『伊賀の残光』『励み場』『遠縁の女』などがある。

『半席』著者紹介文より

『つまをめとらば』は、タイトルだけは聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。自分もまだ読めていないのですが、『半席』が非常に面白かったので、そちらも読んでみようかなと思います!

さて、なんといっても紹介文が良いですよね。

江戸中期の成熟した時代にあってなお懸命にもがき生きる人々を描く時代作家として注目されている。

この部分が、非常に読みたくなるような紹介をされていて、やっぱり時代小説読む人って「懸命にもがき生きる人々」のしがない一日を求めていたりするわけで、だからなんか読みたいなって思っちゃいますよね。

もちろん、バチバチの剣豪小説、勧善懲悪スタイルの捕り物帖が好きな人もいるので、一概には言えないですけどね。

少なくとも「町人小説」「町人もの」「市井もの」が好きな人には響く紹介文です!!

さて、長くなってしまったので、著者紹介はここまでにして内容に移りましょう!

概要

片岡直人は”半席”を脱するべく日々御用に励んでいた。

だからこそ、上役から時おり頼まれる”頼まれ御用”は彼にとっては悩みの種であった。

何が悩みかといえば、断ること自体が面倒であり、一方でその仕事が魅力的であったからである。

“頼まれ御用”は解決している事件の動機を探る仕事であり、事件のうらにある人間くささは日々の業務にはないものであった。しかし、”半席”を脱しないといけない直人にあっては出世には影響しない”頼まれ御用”は遠ざけるべき仕事でもあった。

しかし、いくつかの頼まれ御用をこなすうちに次第に、己の考えも少しずつ動いていき、同時に上役である内藤雅之のことを見る目も尊敬へと変わっていった直人。彼が選ぶ道とは”半席”なのかそれとも”出世”なのか……

おすすめしたい人

・時代小説はあまり読んだことはない、けれど推理小説は好きだという人へ

本書は「このミステリーがすごい!2017年度4位」を獲得した作品です!

普段ミステリ好きな人からは見向きもされない”時代小説”というジャンルでありながら、数ある作品の中からこれだけの評価をされたことが、本書における推理のレベルの高さを表していますね!

概要で示したように事件はすでに解決されていて、すべての事件で動機を探ることに注力されています。

加害者はなぜそのような不可解な犯行をしたのか?謎を巡る際の推理、そして謎が解けたときの人間くさい動機も非常に魅力的です。

小説の魅力

・推理としての面白さ、成長譚としての面白さ

本書の魅力はここに尽きるのだと思います。一冊の小説にある二つの魅力が本書の満足度を高いものへと仕立て上げているのです。

まずは、さきに述べたように推理モノとして短編の一つ一つがとても面白いことが挙げられます。一方で、一冊の小説として読み終えたときに感じる主人公・片岡直人の成長、”半席”との向き合い方の変化が非常に魅力的でもあるのです。

300頁ほどの作品に冗長な部分はなく、だからこそ本書は多く人にとって「読んでよかった」と思わせる読書体験を提供することができるのだと思います。

まとめ

『半席』は主人公・片岡直人が、頼まれ御用で事件の動機を紐解く推理小説の要素と、半席のとらえ方や、人生の向き合い方などで一冊を通しときにその成長を楽しめる成長譚としての要素が含まれています。

時代小説好きという限られた人に刺さる作品も多くありますが、本書は時代小説とは関係なく多くの人に読まれ支持されるだけの魅力をもった作品であると思います!

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