守教 帚木蓬生-守り抜かれる小さな王国-

時代小説

あなたは今村信徒を知っていますか?豊臣秀吉による伴天連追放令から江戸時代に開国がされるまでの間、200年以上にも渡りキリストへの信仰を貫いたある村人たちの存在を。

知っている。おそらくそう答える人のほうが少ないかと思います。しかし、こういった歴史を知らずとも、はたまたキリスト教徒でなくとも、『守教』は読むだけの価値があります。きっと心に響くものがあります。

何故そう言えるのか、それは『守教』には他者への優しさを持つことやひたむきに生きることの素晴らしさが描かれているからです。 これは、時代や人種・信仰に関わらず誰しもに共通することだと思いませんか?

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どんな作家?

まずは、本書を書き上げた帚木蓬生という作家について簡単な経歴を見ていきましょう。

東京大学仏文科時代は剣道部員、卒業後TBSに勤務。2年後に退職し、九州大学医学部を経て精神科医に。その傍らで執筆活動に励む。1979年、『白い夏の墓標』で注目を集める。1992年、『三たびの海峡』で第14回吉川英治文学新人賞受賞。八幡厚生病院診療部長を務める。2005年、福岡県中間市にて精神科・心療内科を開業。開業医として活動しながら、執筆活動を続けている。

Wikipediaより

1975年 – 『頭蓋に立つ旗』で第6回九州沖縄芸術祭文学賞

1990年 – 『賞の柩』で第3回日本推理サスペンス大賞佳作

1992年 – 『三たびの海峡』で第14回吉川英治文学新人賞

1995年 – 『閉鎖病棟』で第8回山本周五郎賞

1995年 – 福岡県文化賞

1997年 – 『逃亡』で第10回柴田錬三郎賞

2010年 – 『水神』で第29回新田次郎文学賞

2011年 – 『ソルハ』で第60回小学館児童出版文化賞

2012年 – 『蠅の帝国』『蛍の航跡』で第1回日本医療小説大賞

2013年 – 『日御子』で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞

2018年 – 『守教』で第52回吉川英治文学賞、第24回中山義秀文学賞

Wikipediaより

小説家以外の経歴だけでも非凡な才能があることがよく分かります。そして、作家としても、吉川英治文学賞・山本周五郎賞など数ある有名な賞を受賞しており、一流の作家ですから本当に凄い人ですよね。

おすすめしたい人

『守教』は歴史小説・時代小説ですから、まずは歴史好きな人にはおすすめしたいですね。続いて、悩みや迷いを抱えている人におすすめしたいです。理由については後ほど書きます!

・歴史小説が好きな人

・悩みや迷いを抱えて生きている人

あらすじ

「小さくともイエズスの王国を作ってくれ」キリシタン大名・大友宗麟から言付けを預かった武士・一万田右馬助は大庄屋となり、筑後領・高橋村で宗麟の教えを実行していきます。

小さくとも確かなイエズスの王国が出来上がった高橋村でしたが、織田信長が本能寺で横死し、豊臣秀吉の天下となった時から逆風が吹き始めます。

一度吹き始めた逆風は江戸時代末期・開国がされるまで止むことはなく、高橋村からも犠牲者が出始めてしまいます。

一万田右馬助の子孫たちは大庄屋として、イエズスの教えを守りつつも、犠牲者を出さないように苦悩奮闘していきます。彼らが如何にして高橋村の住民たちを、そして信仰を守り抜いたのか、信仰とは・生きることとは?隠れキリシタンの歴史を描いた傑作

小説の魅力

・立場の違う人間が手を携えて生きること

『守教』は代々引き継がれていく大庄屋の姿、命を賭して布教を続ける宣教師の姿に心が揺さぶられるものがありますが、何より感動するのは立場の違う人間たちが手を携えて生きている姿です。

キリスト教の村にいる僧侶であろうが、禁教令のもと棄教したものであろうが、高橋村の人々は自分の立場と異なる人たちに対して常に理解を示し続けます。

捨て子が置かれれば育て上げ、逃散した者が辿り着けば救い、水が足りなくなれば助けあいます。禁教令のもと棄教を選ぶことになったとしても、彼らは他の信者たちを売るような真似は決してしませんでした。

現代においても、決して助けあいが失われたと自分は思いませんが、立場の違う人間に対する寛容さについては簡単に人を批判できるからこそ感じ入るところがあるのではないでしょうか。

また、『守教』では本当に辛い話も数多くありますが、そんな中だからこそ高橋村の人々が見せる「光」は一段と強く輝いて見えるものです。彼らは一人一人が聖人君主というわけではありませんが、ひたむきに生き続けて、他者への心遣いを忘れることはありませんでした。

・迷いや悩みの先に答えがあること

代々引き継がれていく大庄屋では、それぞれの代で多くの苦悩が伴うことになります。禁教令のもと、信者の炙り出しを計った政策は年々苛烈さを帯びていき、大庄屋として信仰を優先するべきか、民を守ることを優先するべきか、それは簡単には答えが出ない問いとなるのです。彼らは悩みや迷いのなかで決断を下していくことになります。

自分の決断した選択には、時として後悔に襲われることはありますが、それでも彼らは選んだ道を進んでいきます。選択した時に多く悩んだ分だけ、答えを選んだ時にぶれない強さがあるのでしょう。彼らの決断には命が懸かったものですから、迷いや悩みの重さも並のものではありません。しかし、彼らは最終的に「自分が最も大切にすること」を選ぶことで決断を下していきます。

迷いや悩みというのは、自分が最も大切にするものを探し出すための過程であり、悩みの重さの分だけ、決断した答えにはぶれない強さがあるのです。

小説を書く際に参考にしたいポイント

下調べが丹念にされていること

『守教』で巻末に書かれている参考文献の多さは、それだけ著者が綿密に下調べをして本作に取り組んだことへの表れだと思います。特に、ある時代を史実より切り取る場合にはより精緻な理解が求められます。当然、歴史小説で嘘を書くわけにはいきませんからね。登場人物に関してオリジナルを作るにしても、大枠のストーリーが史実に基づくものならばそこを外してはいけません。

以下、脱線です。

これは自分への戒めでもありますが、今までの人生経験のなかで積んできた事から物語を書きがちになりますよね。自分が知っていること、経験したことは多くを調べずとも手軽に書けますから。

しかし、自分が経験したことでもなく、専門分野でもないところでいかに綿密に資料を読み込んで小説を書きあげられる人っていうのはそう多くはないのだろうと思います。時間や労力もかかる地味な作業は得てして敬遠してしまうものです。

そんな中でも、下調べを怠らずに他分野の小説を書きあげられる方はきっと小説家になれるのではないだろうかと自分は思います。

まとめ

『守教』は大枠としては禁教令のもとでも信仰を続けた人々の物語ではありますが、より細かく見ると一人一人の人間が他者への心遣いを忘れず、ひたむきに生きる物語です。

今も昔も自分と異なる立場に身を置く人に対して、理解を示すことは本当に難しいことだと思います。だからこそ、『守教』で映し出される光は、歴史を知らずとも信者ではなくても心に響くものがあるのでしょう。

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