密封 上田秀人-幕府の闇へと切りこむ文士-

時代小説

『密封』は奥右筆秘帳シリーズの第一作となります。奥右筆という職業を活かしての「推理」と用心棒が戦う「剣術」の二つの要素から成る時代小説です。

奥右筆とは、江戸時代、幕府に関わる全てのことを書きつけて保存する仕事でした。全ての書類に目を通すことが出来る唯一の立場であることから、幕府の闇へと巻き込まれやすく、暗殺の多い職でもあります。また、業務の可否について下調べを行い、老中が取り計る前に意見の可否を提出するため、名目的な地位の高さ以上に重役として扱われていました。

奥右筆シリーズでは、奥右筆組頭・立花併右衛門が幕府の闇へと巻き込まれ、用心棒である柊衛悟が彼の身を守るために奮戦しながら、闇の正体を突き止めていく物語です。推理ものとしても非常に内容が濃く、本策『密封』は文庫本で400pあまりですが、長さ以上の濃密さを感じる話でした。

それでは、本作の著者である上田秀人氏の経歴から見て行きましょう!

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どんな小説家?

上田秀人(1959-) 大阪府生まれ。大阪歯科大学卒業。

1997年、『身代わり吉右衛門』で、小説CLUB新人賞佳作。小説家デビュー

2010年、『孤闘 立花宗茂』で、中山義秀文学賞を受賞。

本業の歯科医として働く傍ら、執筆活動を行っています。しかしながら、著作は既に100冊を超えており、相当な速筆であることが分かります。様々な時代小説シリーズを並行して書いており、現在のシリーズ作品では『百万石の留守居役』シリーズがより人気ですね!

概要

奥右筆組頭・立花併右衛門は田沼意次の孫・意明の死亡届に疑問を抱いた。死亡届に対しての調べをしていたその日、帰宅途中に「この件から手をひけ」との脅迫を受ける。

併右衛門は警護に柊衛悟をつけると、さらに調べを進めていくが、この一件は幕府の大きな闇へと繋がるものであった...

おすすめしたい人

・捕物帳が好きな人

凄くシンプルな書き方にはなってしまいましたが、おそらくこれで間違っていないと思います笑。実際には、敵方が強すぎて捕物となることはないのですが、事件を追って犯人を探し当てる過程まではいわゆる捕物帳とおなじかと思います。

普段から時代小説に親しんでいる人であれば、『密封』は間違いなく楽しめるはずなので、まずはそういう人向けにおすすめですね。

・推理小説が好きな人

そして、現代ものの「推理小説」が好きな人にとっても本作は楽しめるのではないかなと思います。

これは自分の想像の範囲でしかないのですが、推理小説楽しめる人って結構頭良い人多い気がしています。というのも、ただストーリーをなぞるだけでは、ミステリーって楽しくないじゃないですか。自分の頭で「考えながら読むことが出来る人」が必然的に、ミステリー好きには多い気がします。そんな人は往々にして教養もあって、歴史も結構知っていることが多いです。

もし、あなたがミステリー好きで、歴史がわりかし得意な方だったのであれば、ぜひ本作に挑戦してみてください。この作品が時代小説にハマるきっかけになる本かもしれません!

小説の魅力

・ストーリーの濃さ(仕掛けの多さ)

本作、最大の魅力は中身の濃さです。400pに詰まった仕掛けの多さが読むものの手を止めさせず、次々にページをめくらせます。「推理」「剣術」二つの仕掛けが張られているため、作中での中だるみが一切ありません。一つの場面が終われば、すぐに次の展開へと移っていくのが特徴的でした。

主にメインとしては併右衛門の「推理」にあるのですが、衛悟の「剣術」もバランス良く挟まれているため、自分みたいなちょっと「推理」が濃いとついていけなくなるような読者もしっかりと読み進められるようになっています。

しっかりと考えながら読む「推理」と、さらっと読めて清涼感のある「剣術」。バランス感の良さが読者にとっては非常に親切で楽しめる仕掛けになっていました。

・サブキャラクターの魅力

主要な登場人物として、立花併右衛門・柊衛悟がいますが、彼らに関わっていく登場人物たちが結構魅力的なんですよね。ここでは、二人だけ紹介します。

一人目が立花併右衛門の一人娘・瑞紀です。

美しくて気が強い、瑞紀は読者の心を惹きつけます。特に、衛悟は命を張る緊迫した場面が多いだけに、瑞紀との淡い恋愛描写は対照的で、魅力的なシーンですよね。本作『密封』だけではまだ二人の関係は大きな進展は見られませんが、今後衛悟が立花家に養子に入り、瑞紀と結ばれていくのかも注目ポイントですね!

二人目が覚蝉です。かつては、上野寛永寺の僧侶で俊才として名を馳せていました。しかしながら、「酒と女がなぜ悪であるのか?試してみないと分からないではないか」との好奇心から実体験したところ見事に嵌ってしまい、破門を言い渡された変わった経歴をもつ僧侶です。

現在は、願人坊主として生計を立てていて、衛悟の助けに現れる形で物語に登場します。本作ではキーパーソンではありませんでしたが、これから先もゆるいキャラクターと何やら抱えていそうな一幕から目を離せない人物であることでしょう。

まとめ

『密封』は400pながらも密度が濃く、非常に読み応えのある作品になっています。

人気時代小説家の代表的シリーズの第1作であることから時代小説好きのみならず、多くの人に読んでみて欲しい作品です。特に、ミステリー好きで歴史にもそれなりには興味あるよっていう人には時代小説の入り口となる作品かもしれません。是非手にとってみてください!


奥右筆秘帳(全12巻完結セット) (講談社文庫)

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