直木賞がまだ新人に送られる賞だったころ、後に時代小説界を代表する小説家が、デビューからわずか2年で受賞した。
藤沢周平、受賞作は「暗殺の年輪」である。
人間の侮蔑や偏見は簡単に覆らないというリアルのなかで、男がみせる意地と刀には、底知れない魅力がある。
デビュー作「溟い海」、直木賞受賞作「暗殺の年輪」を始め、デビューから2年間の間に書かれた小説より5本が収録された、初期の藤沢作品を楽しめる一冊。
どんな小説家?
藤沢周平(1927-1997)
Wikipediaより
1971年(昭和46年)「溟い海」で、第38回「オール讀物」新人賞受賞。
1973年(昭和48年)「暗殺の年輪」で、第69回直木賞受賞。
1986年(昭和61年)「白き瓶」で、第20回吉川英治文学賞受賞。
1989年(平成元年)「市塵」で、第40回芸術選奨文部大臣賞受賞。
1989年(平成元年)作家生活全体の功績に対して、第37回菊池寛賞受賞。
1994年(平成6年) 朝日賞受賞。第10回東京都文化賞受賞。
1995年(平成7年)紫綬褒章受章。
1997年(平成9年) 鶴岡市特別顕彰、山形県県民栄誉賞受賞。
人間の愛から憎悪まで、静かながらに迫力をもって描く小説家。特に、豊かな情景描写に読むものを虜にする味があります!
また、上記の輝かしい経歴から分かるように、時代小説界を代表する作家さんです。
本書をはじめとして、数々の傑作といえる短編集を残しているので、はじめて読む人は短編集から読むことをおすすめします。
一般的に評判が良いのは、『たそがれ清兵衛』でしょうか。私のおすすめは『驟り雨』ですね!
まあ、好きな人は好きですし、時代小説なんて無理!っていう人には無理だと思うので、どっちかが好きなら両方好きだと思いますし、その逆もしかりといった感じですかね笑
概要
藤沢周平のデビューから2年の間に描かれた作品から5本が収録。
・黒い縄
・暗殺の年輪
・ただ一撃
・溟い海
・囮
執筆年順に追うと、溟い海(デビュー作)、囮、黒い縄、暗殺の年輪(直木賞)、ただ一撃となっています。
収録順に読んでも、執筆順に読んでも、大差はないので好きな方から読んでみてください!
収録順で言うと、前半三本が「剣」を主題に取り扱った作品であり、後半二本「町人」を描いた作品といえるでしょう。
不穏な雰囲気と、緊張感に包まれた小説が多く、どこか張りつめた空気が読者にも漂ってくると思います。
その、緊張感が達した時に物語は大きな展開を見せます。
短編ながら深い味わいと余韻を残す作品は、大きな満足感を与えてくれるのではないでしょうか。
また、現実の続きにあるようで、しかし、悲劇とも一つ違うラストが、読者の心に深い余韻を残すことでしょう。
おすすめしたい人
・直木賞受賞作を読みたい人へ
読書家というのは、本に対して強欲で、本屋に行くと「どの本も読みたくなってしまう」なんてことがよくあります。
「読みたい本がありすぎて中々選べない」なんて人は直木賞を全部読むなんて読み方をおすすめしてみます。さすれば、色んな小説に触れることが出来ますし、自分の趣味を知ることにもなるでしょう。
もちろん、本書のような一般的には素通りされがちな「時代小説」にも出会うこともあります。ここから意外に面白いじゃん!ってなることもあるあるなので、ぜひ手にとってみてください。
というわけで、今読む本に迷っているあなたには、直木賞受賞作全読みと、その手始めとして『暗殺の年輪』をおすすめしたいと思います!
小説の魅力
・緊迫感
どこか張りつめた緊張感や、どんよりとした湿った空気感が満ちた物語が多いです。
「何かが起こるかもしれない」なかで進んでいく物語と、「何か」が起きた時の盛り上がりが素晴らしく、読むもの心をじわじわと捉えつつ、ピークで一気につかむ魅力があります。
・登場人物の繊細な心の動きを的確に捉える筆
そして、緊迫感が生まれる要因の一つにこれがあります。
喉元までこみ上げているが吐き出すことの出来ない、そういう心の状態を的確に捉えて表現していきます。
だからこそ、「起」の段階からしっかりこれは面白いぞと思わせるだけの魅力があるのでしょうし、「転」が起きた時の高揚もひとしおとなるのでしょう。
滑らかで自然でありながらも、的確な表現を積み重ねる地の文は、本書にかぎらず小説家・藤沢周平の最たる魅力かと思います!
まとめ
藤沢周平の初期作品が収録された『暗殺の年輪』
静かでただ何かが起こりそうな不穏な雰囲気と、覚悟を決めて生きる者の力強さが同居した傑作短編集。
特に、表題作「暗殺の年輪」は、
過酷で非情な現実を前にして、一人立ち向かう男の刹那的輝きが、
熱い感情となって読者の心を燃やすことでしょう
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