余寒の雪 宇江佐真理-温みのある時代小説-

時代小説

時代小説が好きではない人にも表題作だけは読んでほしい作品です!

本作は中山義秀文学賞を受賞した作品で、表題作のほか7作が詰められた短編集になっています。

史実の人物を登場させた作品が二本、全て架空の登場人物の作品が五本収められています。

結末がすっきりとする分、後者の五本のほうが面白いと感じる人多いかもしれません。

さて、前口上はこれぐらいにして、まずは著者である宇江佐真理氏について見ていきましょう。

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どんな小説家?

宇江佐真理、1948年、北海道函館市生まれ。函館女子短期大学卒業。1995年「幻の声」で第75回オール讀物新人賞を受賞。受賞作を含めた『幻の声 髪結い伊三次捕物余話』が第117回の直木賞候補作となり、新進の女流時代小説作家として注目を浴びる。他の著書に『泣きの銀次』『銀の雨 堪忍旦那為助八郎』『室の梅 おろく医者覚え帖』『紫紺のつばめ 髪結い伊三次捕物余話』がある。

『深川恋物語』著者紹介文より

2015年に亡くなられるまで筆をとり続けた小説家です。髪結い伊三次捕物余話シリーズが最も有名ですが、その他に多くの時代小説を描いています。

人情や味わい深く優しい物語が魅力的といえるでしょう。

最初からクズな男は最後まで、そのクズさが拭えないのが時代小説あるあるだと勝手に思っているのですが、宇江佐さんの作品では真人間になる物語も少なくないんですよね。

初めて時代小説を手に取る人には、とてもおすすめな小説家です。

概要

・紫陽花

吉原で遊女をやっていた頃の仲間である、梅ヶ枝が死んだ。

現在はお直と名乗り、大店のお内儀として生きている彼女は、かつての仲間を弔うことにした。

梅ヶ枝は我の強い女子であった。彼女との出来事を思い返すと、良いこと・嫌なことも思い出される。そして、彼女は紫陽花がとても好きだった。

・あさきゆめみし

正太郎は女浄瑠璃の京駒に熱を上げていた。彼の熱の入れ方は尋常でなく、仲間たちと衣装を揃えて、彼女の舞台には全て駆けつけていた。

ある日、正太郎が苦手としている直助を彼女の舞台に連れていくことになった。直助は「京駒には男がいる」と断言し、正太郎も失望させる。

そして、直助は金を積んで舟に京駒を呼んだことが発覚するのであった……

・藤尾の局

後妻に迎えられ、今は備前屋のお内儀として生きているお梅は、かつて大奥で藤尾の局といわれる人物であった。

先妻の死から一年経たずに後妻に迎えられ、旦那から一身に愛情を受けていたことから、先妻の二人の息子とは確執があった。この日も、酒乱もちの二人がやってきて、慌てて小部屋に隠れたのだった。

実の子であるお利緒は兄たちを「叩きのめしたい」という。しかし、それはいけないと諭すお梅。十二歳のお利緒は理解できない様子であるため、大奥時代の話を聞かせることにした。

・梅匂う

助松は妻が死んでから、やもめを通していた。

ある日、助松は怪力女として見世物に出ている大滝太夫に一目惚れする。

熱を上げた助松は、大滝太夫に金を貢ぐのだが……

・出奔

川村修富の甥・勝蔵が出奔した。

勝蔵の出奔の理由を探るうちに、一つの悲劇を知ることになる。

・蝦夷松前藩異聞

松前藩主は代々「発疳」という奇病に悩まされていた。いわゆる、気がふれるといえば分かりやすいだろうか。

それまで聡明であった藩主たちが異常な性欲、激情をもつようになるのであった。

現藩主・蠣崎昌広も二十歳のころから変調をきたし、今では完全に正気を失っている。

藩の重役である栄吉は、松前藩を救うべく藩主の交代を画策するのであるが……

・余寒の雪

女剣士として立身することを知佐であったが、両親の工作のすえ、江戸の俵四郎の後添えに迎え入れようとした。

江戸の俵四郎の家ではじめて事実を知った知佐は怒り、「町方役人の後添えにはならぬ」というのだが……

しかし、俵四郎の五歳の息子・松之丞と過ごす日々は、なんだかんだといって知佐は楽しかった。

やがて、江戸から離れる日が来て、俵四郎との真剣での勝負をすることになった知佐。松之丞が健気に父親を応援する姿が知佐の目に映った……

おすすめしたい人

・温かい小説を読みたい人へ

タイトルにある通り本小説はとっても温かい内容なのですが、ここでは特に表題作についてふれていきたいと思います。

結論からいくと、文庫版の裏表紙に書いてあるとおり、「幼子とのぎこちない交流を通じ次第に大人の女へと成長する」物語です。

松之丞と交流して次第に心が変わっていく描写と、それでもなお自分の生き方に意地と誇りをもって生きる姿の対比が良く、それが最後の最後の真剣勝負へと繋がっていきます。

秒で女を手籠めにする作品も少なくない時代小説のなかで、コンプライアンス的にも良い作品だと思います。例えると、『神去なあなあ日常』並みに優しい小説です。

そして、読者の心をつかんだうえで多くの人が望む結末を描いてくれますから、誰が読んでも感動してしまうのではないかなと思います。

やはり、温かい小説、優しい小説というのは人を選びません。

以上より、時代小説を読まない人を含めて多くの人におすすめできる小説だと思います!

まとめ

時代小説を読まないという人でも、表題作だけは読んでほしいと思いました。

きっと面白いと感じるはずです。

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