『まむし三代記』はタイトルにあるように斎藤道三の一族三代を描いた作品になっています。しかし、本書は従来の”成り上がり”要素だけにとどまりませんでした。
「国滅ぼし」と「国を医す」大きな二本の柱が物語を傑作たらしめる魅力です。
すでに、斎藤道三像を持つ人ほど、本書に驚き、凄さに圧倒されるのではないでしょうか。
あなたの持っている”斎藤道三”が覆される非常に面白い大作に仕上がっていることは間違いないでしょう。
それでは、まずは著者である木下昌輝さんの紹介からしていきましょう。
どんな小説家?
木下昌輝
『まむし三代記』著者紹介文より
1974年奈良県生まれ。
2012年「宇喜多の捨て嫁」でオール読物新人賞を受賞して、デビュー。受賞作を含む『宇喜多の捨て嫁』で第152回直木賞候補。以後、直木賞候補に計3回なる。舟橋聖一文学賞、野村胡堂文学賞、大阪ほんま本大賞を受賞。主な著作に、『人魚ノ肉』『敵の名は、宮本武蔵』『信長、天を堕とす』など。
2012年のデビューから10年足らずで直木賞候補に3度連ねるなど、既に歴史小説界では人気小説家の一人となっています。
本書『まむし三代記』では、中山義秀文学賞を受賞するなど、高い評価を受けている作品となります。
冒頭にも書きましたが、戦国小説が好きな人であればまず読んで後悔することはないかと思います。
概要
「美濃の蝮」といわれた斎藤道三。一族はいかにして国盗りを成したのか、彼らを語るうえではかかせない一人の男がいる。
源太という名の男だ。
この者は、法蓮房・斎藤道三・斎藤義龍と三人の主君に仕え、彼らがいかにして国を盗み、国を医したのかを間近で見てきた。
「国滅ぼし」、日本すら呑み込むほどの劇薬をいかに活用したのか、始まりは法蓮房の父・松波高丸まで遡るのであった。
おすすめしたい人
斎藤道三は戦国大名の筆頭格であり、時代を象徴する人物でもあります。
現在でも多くの人から人気を集めている戦国武将といえるでしょう。
斎藤道三の出世物語はそれだけでも十分面白いですが、「国滅ぼし」という新たに加わった秘密を巡ってのドラマはより大きなスケールをもって読者に迫ります。
物語の最後、「国滅ぼし」の全貌が明かされるとき、読者ははじめて法蓮房・道三が行った所業の真意が分かるのでしょう。
あくまで小説ではありますが、斎藤道三がいかに傑物であったか、その魅力を再確認出来る作品です。
戦国時代が好き、戦国小説が好き、そんな人にとっては外すことの出来ない作品といえるでしょう。
小説の魅力
・国盗りは国を医すためである
『まむし三代記』では法蓮房(斎藤新左衛門)、斎藤道三(斎藤新九郎)、斎藤義龍(豊太丸)、と主人公が代々引き継がれていきます。
本書はまず彼らの野心と人間的魅力があってこその物語になっています。人心を捨てた蝮として見られる彼らですが、当人たちは「国を医す」ことを目的に国盗りを行っているのです。
なぜ、「国を医す」ために国盗りを行う必要があるのか、そして謀略の限りを尽くしてでも果たそうとするのか?
一族が「国を医す」こと、そして、代償に支払う「業」は本書を語るうえでは欠かせない見所になっています。
・そして、国滅ぼしである
読者が本書を開いた時に最初に目にするのが「そして、国滅ぼしである。」という言葉です。
この時点では何を言っているのかさっぱり分かりませんが、次第に秘密が明かされるにつれて「国滅ぼし」も正体を明らかにしていきます。
松波高丸が興し、神算の法蓮房が発展させ、斎藤道三が仕上げた計画。途方もないほどに大きな話である「国滅ぼし」が、物語を通して一番の魅力です。
「国滅ぼし」の正体を示すヒントは物語に隠されてはいますので、答えが出る前にぜひ謎解きに挑戦してみてください。
しかし、すべてが明かされた時はじめて、「あのシーンは伏線だったのか」と読み返す読者も多くいるかもしれません。少なくとも私はそんな読者の一人でした笑
まとめ
『まむし三代記』従来の成り上がりを描いた斎藤道三像に、「国滅ぼし」という観点を加えた画期的な作品になっています。
一族の魅力、大いなる矛盾、そして国滅ぼし。
一族三代をもって「国を医す」、壮大な物語はいままでになかった”斎藤道三”を見せてくれます。
【この小説が好きな人へのおすすめ】
コメント