「何度でも立ち上がればいい」「何度でもやり直せばいい」、どこかで再生産され続ける薄っぺらな綺麗ごとにはあまり耳を貸したくはないですよね笑
しかし、本書を読み終わった時には、心からすっとそんな言葉を受け取れると思います。とても温かくて優しい小説でした。
たぶん名作です。
どんな小説家?
1956年、埼玉県生まれ。埼玉県立大宮高校、成城大学卒業。コピーライター勤務を経て、1997年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞し、小説家デビュー。2005年『明日の記憶』で山本周五郎賞を受賞。2016年『海の見える理髪店』で直木賞を受賞。
言わずとしれた大作家でしょう。デビューからこれまで筆を休めることなく幾多のヒット作を生み出し続けている怪物です。
荻原節とも形容したくなる、軽妙で楽しい掛け合いが魅力で、重い主題を描いてもどこかに空白や余裕を持たせてくれる読者に優しい小説家ではないかなと思います。
これはイメージですが、変人または理不尽に振り回される主人公が多い気がします笑
概要
大手代理広告店を退職し中堅食品会社「珠川食品」に再就職した佐倉涼平は、入社してまもなく役員たちの揃う先で上司と大喧嘩を起こしてしまい左遷先へと飛ばされる。
「お客様相談室」といわれるこの部屋には様々な理由で飛ばされた個性豊かな人間が集まっていた。全てにおいてだらしないが謝罪のプロである篠崎のもとで、涼平は仕事も恋愛も見つめなおしていく。
小説の魅力
・オリジナリティがあって温かく、押しつけがましくないこと
正直、温かい小説というのは結構たくさんあって幅広な層から手に取られやすいものです。しかし、その温かさがどこかの焼き増しストーリーだったり、内容が薄っぺらかったりすると、無味無臭の読書体験で終わってしまうこともあります。
毒気がないので刺さり方も難しいし、一方で押しつけがましいとひかれてします。そんな”温かい”小説群にあって、本書は物語のオリジナリティ(面白さ)と優しさの距離感が抜群で、素直に温かさを感じることができます。
本書の舞台は左遷された人間が集まる、いわゆる首切り部屋というなんとも希望のない職場ではあるのですが、著者特有の軽妙な掛け合いのおかげで読むたびに悲壮感を消し去っていきます。
特に、遅刻癖があり全てにだらしない篠崎と主人公の涼平との軽妙な掛け合いには、楽しみすら感じさせるくらいです。
また、他のメンバーも大いに個性的であり、職場はタレント軍団もしくは動物園と形容したくなるような賑やかさがあります。
ストーリーにしても、暴力団クレーマーとの対決や、副社長との対決など起伏に富んでいて飽きを感じさせる場面がありません。
本書はサラリーマンと恋愛の”やり直し”が主題にありますが、外側を覆うエンターテインメントが軽妙でテンポがいいため、微塵も説教くささを感じさせません。なので、素直に”やり直し”の主題を受け取ることが出来ます。
例えば、自分はお仕事小説を読みたいと思って手に取ったわけですが、実際には誰がどんな場面で読んでも面白さを感じることが出来る作品なのではないでしょうか。
おそらく『四畳半神話大系』(森見登美彦)『鴨川ホルモー』(万城目学)『キケン』(有川ひろ)は大学生が読んだら楽しい小説だけれど、それ以外の人が読んでもきっと面白いことと同じかな?と思います。
『神様からひと言』は物凄く深いことを言っているわけではありませんし、人生に大きな影響を与える意味での小説ではないと思います。
それでも、本書を読んでよかったと多くの人に感じてもらえる作品ではあると思いますし、読者に元気と希望をわけてくれる小説であることは間違いないです。自然と背中を押されているような感覚があるのではないでしょうか。。
さて、本書にある軽妙さは著者自体の魅力でもありますから、本書が好きな人には是非他の作品も読んでみて欲しいです。
例えば『明日の記憶』では、若年性アルツハイマー型認知症を描いたより悲壮感にあふれる内容ではありますが、荻原節のおかげで読み進めることに苦痛を感じませんし、読了時には残酷な現実を受け入れたうえでの大きな感動と希望を感じることが出来るはずです。
『噂』『砂の王国』『海の見える理髪店』など幾多の名作がある著者ですが、『明日の記憶』はその中でも一押しの作品です!!
まとめ
『神様からひと言』は押しつけがましくない優しさと希望を描いた作品です。
本書を読めば少なくとも今日一日を生きるくらいエネルギーをくれるはずです!
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