隠し剣孤影抄 藤沢周平-弱者の秘剣-

時代小説

剣豪とは身も心も強く、己の剣一つで我が道を切り開いていくものです。

しかし、藤沢周平の描く剣豪は違いました。そこにはまるで剣豪の持つ「強さ」から溢れ出る魅力はありません。
それでもなぜか、異色ともいえる剣豪小説は、心にすっと突き刺さってくるのです。

弱さや脆さを抱えたままで剣だけが強くなってしまった、庶民的な剣豪たち。
その運命によって、剣を振るわざるをえない彼らに待ち受けるのは、天国かはたまた地獄か。

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どんな小説家?

藤沢周平(1927-1997)

1971年(昭和46年) – 「溟い海」で、第38回「オール讀物」新人賞受賞。
1973年(昭和48年) – 「暗殺の年輪」で、第69回直木賞受賞。
1986年(昭和61年) – 「白き瓶」で、第20回吉川英治文学賞受賞。
1989年(平成元年) – 「市塵」で、第40回芸術選奨文部大臣賞受賞。
1989年(平成元年) – 作家生活全体の功績に対して、第37回菊池寛賞受賞。
1994年(平成6年) – 朝日賞受賞。第10回東京都文化賞受賞。
1995年(平成7年) – 紫綬褒章受章。
1997年(平成9年) – 鶴岡市特別顕彰、山形県県民栄誉賞受賞。

wikipediaより

時代小説界を代表する作家で、本書『隠し剣孤影抄』に収録されている「隠し剣鬼の爪」は、山田洋次監督によって映画化もされています(興行収入9.07億円)

映画化のほうでは「隠し剣鬼の爪」というタイトルではあるものの、「隠し剣鬼の爪」をベースに「邪剣竜尾返し」「雪明かり」(時雨のあと収録)を掛け合わせた作品になっているようです。


本書の「隠し剣鬼の爪」とはまた違った面白さがあるので、そちらもぜひご覧になってみてはいかがでしょうか?

U-NEXTだと、「たそがれ清兵衛」や「武士の一分」などの作品も観られました。
NHKパックだと「立花登青春手控え」も見られるのでお好きな方は悪くない選択肢だと思います。

自分も折半して見てますが、満足度はわりと高いです。作品数多いですし。ただ割高なので誰かと折半できるとベストですね!

概要

『隠し剣孤影抄』は門外不出とされる秘剣を授けられた武士の物語が8本収録されている作品になっています。

・邪剣竜尾返し
・臆病剣松風
・暗殺剣虎ノ眼
・必死剣鳥刺し
・隠し剣鬼の爪
・女人剣さざ波
・悲運剣芦刈り
・宿命剣鬼走り

おすすめしたい人

・哀愁が漂う作品が好きな人へ
本書『隠し剣孤影抄』は剣豪小説によくあるような爽快感や無敵感は一切なく、運命に翻弄されていく武士を描いた作品になっています。

彼らは嬉々として秘剣をふるうのではなく、どうしようもない状況に追い込まれた時に初めて「隠し剣」を繰り出すのです。

物語としてもハッピーエンドで終わる作品のほうが少なく、隠し剣を持ちながら最終的には死んでしまったり、不穏な終わり方をする作品のほうが多いです。

武士ひいては人間社会で生きるなかでの、苦悩や閉塞感を感じることが主題であり、彼らの最後の武器として秘剣が光り輝くのです。
そんな一人の男の哀愁が漂う作品に興味がある方は強く本書をおすすめしたいです。

一方で、ひたすらに剣豪が超人的な活劇をみせる作品が好きな方であれば、前回紹介した『吉原御免状』がおすすめです。

こちらはこちらで振り切った作品になっていて、非常に面白いのです。

小説の魅力

・凡人の輝き
上記で述べたように、一介の武士として日々生きるだけの男たちの、最後に見せる輝きが本書一番の魅力です。

・罪深き人を描く巧みさ

また、人間的に常に正しい道を選びきれなかったり、運命に翻弄されていく様は「己が剣で道を切り開く」剣豪小説の王道からすればやはり異色なものでもあります

しかし、藤沢作品らしさというのはこの点にあるように私は思えます。本書だけでも以下のような罪が挙げられます。

・他人の妻と交わる(邪剣竜尾返し)
・危機から立ち向かわずに我先に逃げだす(臆病剣松風)
・嫁入り前に男に体をゆるす(暗殺剣虎ノ眼)
・藩主の妾を斬る(必死剣鳥刺し)
・決まった相手がいるにもかかわらず、別の男も好きになり、体をゆるす(隠し剣鬼の爪)
・見ばえのしない顔立ちという理由で妻を邪険に扱い、茶屋の女と遊ぶ(女人剣さざ波)
・兄を亡くした義姉と交わる。婚約を目前にした状態でもあった。(悲運剣芦刈り)
・家庭のことを省みず、囲い女をつくる(宿命剣鬼走り)

どれも現在では、多くの人から断罪されるような人たちばかりかもしれません。

しかし、弱さや狡さを切り捨てることの出来ない弱い人間にとっては、自分と同じく罪を犯して生きる人たちの物語にこそ、心揺さぶられることも往々にしてあるものです。

たぶん、あなたが後ろめたさを感じながら生きているのであれば、彼らに石を投げることなくどこか寄り添った気持ちで読み進められるのではないでしょうか。

まとめ

『隠し剣孤影抄』はおおよそ剣豪小説の王道を外れた邪道ではありますが、そこには人間の弱さの本質を描いた藤沢周平の味がしっかりとあります。

一般的平凡人がふるう一瞬の輝きには今までになかった剣豪小説の魅力があります!

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