『あと少し、もう少し』瀬尾まいこ ―もう一つの王道―

小説

陸上小説そう聞いてまず浮かび上がるのは『風が強く吹いている』、『一瞬の風になれ』この二作ではないでしょうか。二作とも文句なしに名作ですよね。葛藤や傷を抱えながらも、それを乗り越えて走り抜く姿には理屈ぬきで胸を打つものがあります。実際、涙したという人も少なくはないはずです。

そんな陸上小説のなかで、今回私はもう一つの王道を推したいです!!

『あと少し、もう少し』瀬尾まいこ

瀬尾まいこさんは中学校の教師をしながら執筆を続けていた方で、2001年『卵の緒』坊ちゃん文学賞、2005年『幸福な食卓』吉川英治文学新人賞を獲得し、2019年度には『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞されています。

作品はどれも繊細で包み込むような温かさがあるので、迷った時、躓いてしまった時、には瀬尾さんの作品を読むといいでしょう。読み終えた時にはきっともう一度進んでいける気持ちがあなたの中に芽生えてくれるはずです。

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概要

舞台は中学駅伝をテーマに

一区・設楽、二区・大田、三区・ジロー、四区・渡部、五区・俊介、六区・桝井

物語自体も一話・二話が一区・二区と襷のように繋がれていきます。

一区ごとに各ランナーの視点から、彼らの葛藤や苦悩を、そして一区間走り切るまでの心の変化が描かれていきます。

おすすめしたい人

『風が強く吹いている』『一瞬の風になれ』が好きな人

青春小説が好きな人

青春小説・陸上小説をまだ読んだことがない人

小説の魅力

一人一人のバックグラウンドが完璧ではないこと

六人は一人たりとも未来が明るくて、毎日が最高で、なんて言うメンバーはいません。一区の設楽はいじめられっ子だし、二区の大田はいわゆる不良です。普段はクラスの中心でイベントごとにも常に中心にいるようなジローでさえも自分の弱さに気付いています。

彼らは、等身大の中学生であり、スーパーマンではありません。

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彼らは、等身大の中学生であり、スーパーマンではありません。

一人一人に自分だけの悩みがあります。

そんな六人がどんな風にして走ることに情熱を注ぐのか、小説では彼らの気持ちや苦悩を丁寧に描いています。一区から六区までの懸命に生きていく姿に、きっとあなたの伴走者が見つかるはずです。

自分では気づいていない才能や魅力

当たり前のことですけど、自分が思っている自己像と、他人から見えている自分って違いますよね。ふとした時に、「あれ、そんな風に思われてたんだ」なんて思うことも経験した人も多いはずです。

先ほどの例を続けますと、設楽はいじめられっ子で、大田は不良です。設楽は当然自分のことはちっぽけで弱い人間だと思っていますが、大田は違います。彼はランナーとしての設楽も高く評価していますし、一途に陸上に取り組む人間としての設楽も深く尊敬しています。

自分が見えていない部分も誰かは評価してくれている

小説ではそんなシーンがたくさんあります。だからこそ、彼らは寄せ集めでありながらも、助けあい、代わりのいない一つのチームとして成っていくのです。

先ほどの話とは反対に、気持ちを伝えたいけれど、言葉ではうまく表現できずに衝突してしまう場面もまた多くあります。中学生男子であれば、当たり前のことかもしれません。

それでも、区間ごとに主人公がリレーされていくなかで、セリフや会話では伝えきれない六人の心の奥底をしっかり拾いあげてくれます。だから、表面の行動だけ見れば好きになることはないメンバーもまた、嫌な奴なんかではなくて、心を持った一人の人間なのだと温かい気持ちで応援することが出来ます。

名将・上原

あくまで六人が主役ですから、pick upするのはちょっと違うのかもしれません。

顧問の上原は陸上のド素人であり、無神経な発言も多くしながらも、伝える言葉は意外にも的確で六人の力を上手く引き出します。

ある意味、教師でありながら教師然とせずに、本音(軽口?)で話してくれる姿は素晴らしいことかもしれません。脇役ながらも六人をベストで走らせる彼女の手腕にも是非目を光らせてみてください!!

小説を書く際に参考にしたいポイント

すぐに面白いこと

序章が数ページあると、すぐに一区・設楽のスタートのシーンになって彼の回想が始まります。私は、まず彼の弱さを見て、応援したくなりました。次に、大田に設楽の走る才能がどれほどあるか教えられます。すると、一区の終わりでは彼に向かって強く声援を送っていました。

「面白くなるまでが長い」これは小説が嫌われる要因の一つではありますが、最初から面白い展開を用意することが出来ればむしろこれは長所になりますよね。

クライマックスが最高潮であること

さっきと似たような話ですね。でも、ページをめくると分かるのですが六区・桝井だけ一区から五区のメンバーよりも文章量が多くなっていることが分かります。

一区から五区まで五人の心と走ってきて、ただでさえ感動している所にクライマックスが準備されているのですから、これはもうたまらないです。一番感情が高まった瞬間に物語は幕を閉じるのですから、読者としてはこれ以上ないですよ、本当に。

参考にできるといいながら、正直どうすればいいかは分かりません。少なくとも、始まりではすぐに読者を惹きつける展開を、クライマックスは最初に決めておくことが最低限やっておくべきことではないかなと…(苦しい)

まとめ

等身大の中学生が襷をつなぐ『あと少し、もう少し』は読者の心をすぐに掴んで、最後まで走り切らせます。速度は早く、一日で全部読んでしまう人もきっといるはずです。

それくらい、この小説は読者の心を離しがたい魅力をもっています。

文庫本の解説には『一瞬の風になれ』の作者・三浦しをんさんをもってして「青春小説の傑作」といわせるほどですからね。

六人のランナーと顧問の作る、寄せ集めでありながら、唯一無二のチームを是非あなたの目で見届けてみてください。

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