火怨 高橋克彦-阿弖流為、誇り高き蝦夷の将-

時代小説

阿弖流為(アテルイ)、みなさんはその存在を知っていますでしょうか?奈良時代から平安時代初期にかけて活躍した武将で、朝廷からの侵攻を寡兵ながらに幾度も退けた蝦夷の棟梁です。ここでいう蝦夷とは、現在の岩手県以北の東北地域を示します。

本作は阿弖流為を主人公にした蝦夷の将たちが故郷を守るためにどんな風に戦い抜いたかを壮大なスケールで描いています。一読者の正直な感想として、間違いなく傑作だと感じました。故郷を守るために戦う将の生き様や信念には多くの読者の胸に強く刺さるはずです。

特に、歴史小説が好きな人、岩手県胆沢郡や奥州市にゆかりのある人は必読ですよ!

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どんな小説家?

高橋克彦(1947-)
岩手県生まれ。早稲田大学卒業
1983年、『写楽殺人事件』で江戸川乱歩賞を受賞、小説家デビュー。
1986年、『総門谷』で吉川英治文学新人賞を受賞
1992年、『緋い記憶』で直木賞受賞
2000年、『火怨』で吉川英治文学賞を受賞
その他、NHK大河ドラマとなった『炎立つ』、九戸などがある。

推理、歴史・時代、ホラー、SFなど多岐にわたり作品を発表し、全ての分野で名のある文学賞を受賞している小説家です。また、郷土愛が強く、故郷である岩手県や東北を舞台にした作品も多くあります。本作『火怨』も現在の岩手県を舞台にした作品ですね。

概要

蝦夷の地に金が見つかった。一つの知らせが蝦夷の暮らしを一変させることとなった。
辺境と蔑まれながらも、価値がないと踏まれていたからこそ得られていた安寧もこの日を境に消え去る。

蝦夷の若き棟梁、阿弖流為(アテルイ)は母礼(モレ)や伊佐西古(イサシコ)とともに、朝廷軍の侵攻に立ち向かうのであった。辺境の野蛮人と侮っていた朝廷軍も遂には、坂上田村麻呂を大将に据えて制圧に本腰を入れていき...

おすすめしたい人

・英雄譚が好きな人(半沢直樹のような)
弱者が強大な権力に立ち向かう英雄譚は多くの人の心を掴むものです。本作『火怨』も東北の一地域のものたちがヤマトを制している朝廷と戦うという構図であり、力の差は歴然です。それでも、故郷を思い立ち上がった阿弖流為たちの強さには心打たれるものがあります

逆にいえば、「そんな単純で、ご都合主義な展開は勘弁」と思う方にはおすすめできない作品かもしれません。

・岩手県にゆかりのある人
阿弖流為の居城である胆沢や奥州市にはどんな美しい自然が広がっているのか、本作を読みながら思わず心を馳せました。それくらい、蝦夷の暮らしている自然の姿は雄大で魅力的に描かれています。地元の人なら当たり前に見ている風景かもしれませんが、小説でいうと「この舞台がここで」なんていう楽しみ方が出来るのが羨ましい限りです。

さらに、胆沢や奥州市には、朝廷を前にして戦い続けた祖先がいること、彼らの生きている姿をこれほど躍動的に描ける小説家がいることも、ゆかりのない人間からするととても羨ましく思います。

本作を読めばきっと郷土愛の無い人にとっても「こんな人たちがいたのだ」と地元のことを再評価すること出来るのではないでしょうか。自分もいつかは胆沢や奥州市などを訪れてみたいと強く思いました!

小説の魅力

・阿弖流為を始めとする蝦夷の将たち
棟梁の阿弖流為だけでなく、天才軍師・母礼、蝦夷随一の剣の使い手・飛良手、蝦夷の財政を支える物部の当主・天鈴など、キャラクターの立った諸侯の存在が本作の魅力です。三国志でも、劉備・関羽・張飛がいただけでは面白くありません。孔明、馬超、黄忠などの存在がいてこそ、魅力的なわけです。

各人の人柄や性格はそれぞれあって、彼ら一人一人の抱えるもの・守るべきものもあります。そんな彼らが阿弖流為に全幅の信頼を置き、蝦夷のために一つになって戦う姿は理屈抜きで心を打つものがあります!

・坂上田村麻呂の存在
蝦夷に対して、朝廷軍はまさにヒールです。蔑視、嘲り、侮りなど心底から蝦夷を舐めきっています。
だからこそ、坂上田村麻呂が登場するシーンでは良くも悪くも読者の身が引き締まるのです。良い面としては、彼は蝦夷のことを対等な人間と思っていますし、武人としては、自分以上の器量であることを認めているからです。阿弖流為たちのことが好きな読者からすると彼らを認め、敬意を払ってくれることはとても嬉しいことです。一方で、戦になると心配になります。田村麻呂は決して油断せず、蝦夷のことを強敵と認識して、戦に備えるわけですから...

本作では味方にしても敵にしても、キャラクターの立った魅力的な登場人物が多くいます。だからこそ、1000pを超える巨編にもかかわらず一気に読ませるだけの力があるのでしょう。戦闘シーン以外の作戦会議や諜報戦一つとっても彼らが居てくれるだけで、一緒に高揚した心持ちにさせてくれます。

まとめ

『火怨』は数ある歴史小説のなかでも傑作といえる小説ではないかと自分は感じました。読んでいる時も、読み終わった後も自分がこれだけ感情移入出来る作品はなかなかありません。終わり方も含めて本当に読んでよかったなと思える作品でした。

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